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宮本武蔵はこう戦った

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#読書

短編小説「武蔵が無になるとき」

短編小説「武蔵が無になるとき」

全速力で間合いを詰める。

小次郎の端正な顔が徐々に大きくなる。

血走った眼差しが全ての動きを認知しているかのように己の全身に突き刺さる。間合いは三間を切る。

互いが踏み込めば剣が届く距離に迫る。

だがどちらかが踏み込まなければ届かない距離。

見切る。

踏み込むと見せかけてその場を動かず相手に初太刀を打たせて空を切らせ隙が出たところを確認してから、確実に相手を仕留める。

佐々木小次郎の

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小次郎,敗れたり!(『宮本武蔵はこう戦った』より)

小次郎,敗れたり!(『宮本武蔵はこう戦った』より)

「佐々木殿、敗れたり」

武蔵は、小次郎に向かって言い放った。本来であれば、目上の人に対して礼を失する発言であるが、小次郎 の心を乱すのには有効だと敢えて言った。もちろん、己を鼓舞する意味もある。しかし、その根底に流れているのは、小次郎の冷徹な行いに対する怒りである。

小次郎は、冷静を保って、表情には何も現さなかった。しかし、内面は大きく揺れ動いた。何気なく取った行為が、武蔵に見透かされたことで

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