No.398 その人の心が賀状に現れて…
正月になると必ず思い出す年賀状があります。心ある老女性からのものでした。
その本文は、
「令節佳辰
福慶惟新
変和万載
寿保千春」
その読みは、
「令節の佳辰(かしん)
福慶 惟(これ)新たなり
燮(やはら)ぎ和むこと万載
寿(ことほ)ぎ保つこと千春」
その意味は、
「正月のよき日に
喜びを新たに
泰平が万年続き
寿命は千春を保つことができますように」
ということのようです。
これは、正倉院宝物の「人勝残欠雑帳(張)」(じんしょうざんけつざっちょう)に見られる言葉です。その解説には次のように書かれていました。
「中国・南朝時代、正月七日に長寿や子孫繁栄を願って、色絹や金箔を切り抜いて人や花の形を作り、屏風に貼ったり、髪飾りにしたりして贈り物にしたこれが人勝で、唐代の宮廷で流行し、奈良時代に日本に伝来。天平宝字元年(757年)に人勝2枚が東大寺に献納されたとの記録があるという。」
「人勝」とは「正月七日に長寿や子孫繁栄を願って、色絹や金箔を切り抜いて人や花の形を作り、屏風に貼ったり、髪飾りにしたりして贈り物にした」とありますから、一種の年賀状のようなものでもあったのだろうという指摘もありました。その送り主も、受取人も、今となっては分かりません。しかし、1265年も前の人々が、正月に心を籠めて祈り歌った「天下泰平」「長寿千年」の言葉が、今に鮮やかによみがえって来るのです。それは現代人の正月の祈りや願いと毫も違いません。いかに時代が移り、科学が進歩しようとも、変わらぬ人の祈りは、国の内外を問わず普遍のものなのではないでしょうか。
老女性も又、新春の喜びと、世界の安寧と、人々の長寿を祈り、「人勝」に心を託されたのだろうと思います。その言葉に気づき、感動し、こんな私たち夫婦にも伝えてやろうとの思いを形にして下さった。その感性に痺れます。嬉しさを押し込められず、また、この年になって初めて知った喜びを伝えたくて、厚かましながら、要らん世話ながら、おすそ分けする次第です。
オミクロンの暴走感染が、我が国内にも顕著になりつつあります。新型コロナの第6波のうねりが押し寄せつつある今、「七草がゆ」のご利益を有り難く戴きながら「人勝」の意味も文字も味方にして乗り越えたいものです。