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No.321 十代の気づき、十代のこころ(3)

 東洋大学の学長で、和歌文学(百人一首)の研究者だった神作光一先生が1987年(昭和62年)に大学創立100周年記念事業として始めたのが「現代学生百人一首」です。2012年(平成24年)までの25年間で100万首を超えたことを記念として、大学が「百人一首フォトブック」を発行しました。本日は、その作品集からの第3弾目!

「きれいねといわれるための花よりも自分と似ている雑草が好き」(1987年)
 ◆「晴(はれ)」よりも「褻(け)」、「余所行き」よりも「普段着」が好きなのかな?

「喫茶店あなたの前でミルフィーユ食べられるほどの自信が欲しい」(1990年)
 ◆恋人の前での食事の嬉しさ恥ずかしさ。重なる思いをミルフィーユに例える巧さ。

「花壇から離れて一輪咲いていたおまえも枠にはまれないのか」(1995年)
 ◆似た者同士を「人」よりも「花」に見出した驚きと親しみ。花にも心がありそう。

「図書館の貸出カードに君の名を見つけて借りたヘルマンヘッセ」(1998年)
 ◆ヘッセの向こうにいる「君」に近づきたくて読む本は、さぞや楽しいでしょう。

「トマトとかスイカの様なあまみありセロリのにがみあわせもつ人」(1999年)
 ◆ツンデレの彼氏に「ほ」の字のあなた、人間の魅力をよくご存知で!

「たのしみは古典の授業恋の歌時代を越えてわかり合うとき」(1999年)
 ◆喜怒哀楽も恋心も幾時代を超えても変わらない「人の心」の真実なんですね。

「聴衆の拍手が教えてくれたことそれは確かな『僕』の存在」(2001年)
 ◆「僕の存在」を、拍手の音で感じ取ったという少年の心に差した光の明るさよ。

「なべの底こびりついてるコゲのように心の傷も落ちにくいんだ」(2002年)
 ◆昔の釜で焚いた御飯の焦げ跡は、本当に落ちにくい。直喩が効いています。

「今日こそは声をかけると決めたんだ!決戦の電車は17時2分発」(2004年)
 ◆何度も潰えた声掛けのチャンス。決心は決戦の時でもあった。吉と出ましたか?

「こんなにもキレイにノートをとるのはね君に『貸して』と言われたいから」(2009年)
 ◆人は人のために頑張れます。そんなちゃんとした理由に後押しされた恋心の句。

「ありがとうたった五文字の日本語が百の気持ちを届けてくれる」(2009年)
 ◆「ありがとう」は世界一美しい言葉。「感謝」の心があって産声を上げます。

「簡単に使わないでよ誰だって期待するでしょハートの絵文字」(2010年)
 ◆茶化して彼に話をそらされたかもしれないけれど、案外、本気だったかもよ。

「手のひらの生命線が短くて『強く生きよう』ぼんやり思う」(2011年)
 ◆「おばちゃんが書き足している生命線」の川柳とは対極にある若き悩みの俳句。
 
 青春の交差点、幾つもの心の曲がり角、複雑に絡み合う恋心…、今思えば焚火のような火も、あの頃は火事のような大きなものに見えていました。しかし、繊細でいて大胆な心、壊れそうでいて強い心、折れそうでいてしなやかな心、浅瀬ばかりではない深淵な心に、半世紀近くも前に若者だった私などは打たれ、教えられ、励まされ続けているのです。

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