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母の一汁五菜と、今の具沢山みそ汁と。

二十歳。親元から離れ、引っ越してきた部屋に一人。
ある家事について、どうしたものか考えていた。

地元四国から遠く離れ関西の、兵庫の小さな市に一人。
さて、今後のご飯をどうしよう。
米は炊けるけど、料理ってどうやるんだっけ。

小中学校での家庭科を除き、まともに料理を作ったことが無かったのは完全にしくじりだったと思う。

「もう二十歳なのに?」「手伝いとかしなかったの?」

そんな声が矢のように飛んできそうなので、当たらぬよう身を伏せつつ。先回って言っておくが、実家に居た頃かなり手伝いをしていた。

学校から帰ったらまず米を研ぎ、犬を散歩させ、風呂を洗い、洗濯物を回収して畳む。高専に入って以降はそれらが終わってからバイトに行っていた。

実習・実験で帰宅が遅く、バイトに行かない日は食後の食器洗いもしていた。えっへん。

それなのにどうして料理はしなかったの?と聞かれると。
答えは一つ。母の料理の手際が良過ぎたからだった。


色んな方面から怒られそうなことを言うが、昔々の私はとんでもないことにご飯は一汁三菜どころか一汁五菜だと思っていた。
メインと別に何種類かおかずがある。それも作り置きじゃない。
旬の物を使い、味のバランスもばっちり。それが毎日の食卓だった。


かと思えば「今日はお好み焼きの日!」とプレート一杯にダイナミックに焼かれた関西風のお好み焼きを取り合う日もあった。
チーズやホワイトソースを嫌がる父が出張の日を狙い、グラタンにコーンスープ、ガーリックトーストが並ぶ日もあった。
土曜日の昼は山のようなおにぎりと何かしらの麺類で炭水化物極まれりのメニューだった。

お弁当の日にオムそばがドーン!と鎮座し、申し訳程度にブロッコリーが添えられていたこともある。
手作りサンドウィッチが人気過ぎて皆に交換してくれと持って行かれるから止めてくれと言ったことも、運動会のお弁当の重箱が美味しい物でみっしり詰まっていて、周りの子たちに羨ましがられて誇らしかったことも。

若い両親に子どもが3人、犬1~3匹(増えていった)。
金銭的に余裕は無かったはずだけれど、毎日のご飯が楽しみだった。

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※ある日の食卓。この後まだ味噌汁と小鉢が出てくる

そんなわけで、母の料理は美味過ぎるし上手過ぎた。
共働きで日中仕事をしつつ昼休みに食材を買い、仕込みをして。
帰ってきたら料理を18時までに仕上げ、その後はもうビールを飲み始める。

手際が良過ぎ、邪魔になってしまう私に出来ることは皿を運ぶことと下げること、それに洗うことくらい。
ちょっと時間がある日でも、母の頭にある冷蔵庫地図(※おい!ピータンより)を崩す度胸が無かったので20年。
まともに料理をする機会を逃し続けていたのであった。


前置きが長くなった。
一人暮らしを始めて最初に作ったのはキムチ雑炊。
いきなり雑炊?そう、雑炊だったんです。

米は炊ける。卵も割れる。そして手元にキムチ雑炊の素。
そうなれば簡単な算数で、解が雑炊になるのは致し方ないこと。

何も無い部屋。パソコンはあるけれどインターネットはゴールデンウイークまで繋がらない。
当時のガラケーでネットサーフィンなんかしたら大変なことになる。
金額的な意味で。なのでレシピの検索も難しい。
母に料理の作り方を聞かないのかって?
いやいや、そんな。感覚でバーッと作れる人の意見は超ビギナーには参考になりませんって。「打撃の秘訣……、来た球を打つ」みたいなことになるもん。

なので最初の先生は、ほぼ日刊イトイ新聞の『がんばれ自炊くん!』。

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この2冊を読み、イメージし、材料を買い、作ってみる日々。
パスタの茹で方から学んだこの本たちには大層お世話になった。
今でもペペロンチーノは「塩は関取になった気分で、ぶちまける!」と口走りながら作る。

本を参考にしたり、やっと繋がったインターネットで調べたりと会社に入ってしばらくの間は作り置きおかずを作る為、休みに食材を買い込んで冷蔵庫はぱっつんぱっつん状態。
慣れてきたら作ったことのないものに挑戦したり。
母から救援物資なる調味料や、地元の味噌、野菜が届くこともあり、段取りが悪いながら時間を掛けて料理しつつもかなりちゃんとご飯を食べていたように思う。


それから時は流れて。
残業で夜遅く帰ることも増え、生活が不規則になり、家でのご飯はどんどん適当に。料理をする気力がびっくりするくらい無くなっていく。

何か作っても、簡単に出来てすぐ食べられる一品物。
帰り道にスーパーが出来たことですぐお惣菜に手を出す。
お惣菜が悪いわけではないけれど、食べたいものばかり買っていればバランスは悪くなる。
夜遅く食べるのも、定時後の職場でお菓子を口にするのも宜しくない。

ストレスもそれに加担し、モチモチ成長し、太った。

そんなに食べている自覚は無いのに、緩やかに増える体重に心はささくれる一方。確かに量は食べて無かった。でも食べ方が、食べているものが良くなかった。

気が付くのに結構な時間が掛かってしまい、最大級の数字になったのは心底悔やまれる。


色々あって体を壊し、職場が変わった現在。
料理担当の同居人の出現により、ちゃんと食べるようになった。
昔と変わらず、私は専ら料理以外の家事をする。

手間の掛かり過ぎる一汁五菜はお互い早々に諦めた。
代わりに野菜をたっぷり圧力鍋で煮込んで具沢山の、出汁が効いた味噌汁を基本にタンパク質と野菜をしっかり。お弁当まで作って貰っている。

バランスよく、美味しく食べる毎日で、身体が引き締まってきたので、調子に乗って運動もするように。更に痩せて自分史上最高の体型だ。やったね!

日々の料理をするのが苦手な私だが、代わりに昔も今も『作って貰ったら必ず感謝する』『美味しい!を伝える』この二つだけは守っている。

時々外食するのも、買い食いも、たまにジャンクなものを摘まむのも。日々の食事をちゃんと採っているおかげで、より楽しい。

日々のおいしい食事に感謝しつつ。今日も「いただきます」




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よしきち
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