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「真珠湾からバグダッドへ」ドナルド・ラムズフェルド(著)

 今年の夏に死去したアメリカの元国防長官である、ドナルド・ラムズフェルド氏の自伝が本書です。私は彼という政治家、人間が好きなのでこの本の愛読者ですが、多くの人はイラク戦争を引き起こした悪人の一人という印象の方があるのではないでしょうか。

 本書の題名は日本人用に「真珠湾からバグダッドへ」という名前になっていますが、原書の題名は「Known and Unknown」です。

日本人向けの題名が「真珠湾からバグダッドへ」という名前になってる理由を勝手に考察しますと、ラムズフェルド氏が幼少期のころに体験したのが太平洋戦争(真珠湾攻撃から開戦)であり、彼が政界引退をする幕引きとなったイラク戦争、そのイラクの首都がバグダッドだからだと思います。

 ですが、私はこの本の題名は原書通りの「Known and Unknown」の方が好きです。この言葉はイラク戦争時に国防長官だったラムズフェルド氏が記者に対して話した以下の言葉がもととなっています。

「There are known knowns, there are things we know we know. We also know there are known unknowns, that is to say we know there are some things we do not know. But there are also unknown unknowns, the ones we don't know we don't know.」
「世の中には知っていること(knowns)と知っている(known)があります。それは私たちが知っていると自覚していることです。あるいは知っていること(knowns)と知らない(unknown)があるのも私たちは知っています。それは自分たちが知らないものがあるということを私たちは知っていると自覚していることです。しかし、知っていないこと(unknowns)と知らない(unknown)もあります。それは私たちは自分がそれを知らないことを自覚していません」

※なんとなく訳しました。読みにくいようであれば元々の方を翻訳かけてみてください。

 このフレーズはアメリカで有名になりました。わざわざそれ用のwikipedeaができたくらいです(笑)

 一見難解な言葉ですが、彼の哲学の一片がここから推測できます。私は本書を読み返している途中ですが、今回は現段階で読み終えている部分から感じた、ラムズフェルド氏という人間について紹介したいと思います。

・Unknown and Unknowns

 何度見ても難解ですよね(笑)

「知らないと知っていないこと」

「こいつは何を言いたいんだ」ときっと、記者会見場にいた記者たちの一部も感じたと思います。本書の冒頭でラムズフェルド氏はこの言葉の真意について書いています。

その内容を簡単に要約すると

「unknownは自分自身が知らないと自覚している。unknownsは誰も推測もできないくらいの事象」

という意味だそうです。

 彼自身はこの言葉は自分でつくったわけではなくて、ソクラテスの「無知の知」からインスピレーションを受けたらしいです。

いついかなる時も指導者は不確実な情報を扱う分、知に対して謙虚でないといけないという警句だとも書いています。

・議員ではなく行政官として

 ラムズフェルド氏は大学卒業後に海軍に入隊、数年の従軍経験を経て下院議員に立候補して当選。アメリカの立法府の構成員となります。

彼の生涯を見ていて感じるのは彼の精力的なスタンスです。日本の国会議員とは全然印象が違う。彼はアクティビストという言葉がぴったりだと思います。

 ベトナム戦争に問題を感じると議員団を連れてベトナムの現地を訪問し、現状を視察して自分で判断して、議会で自分の意見を積極的にいう。

努力家で仕事熱心、イラク戦争の悪人という印象はあくまで晩年の一瞬だけを切り取った印象に感じます。

 当時の共和党は議会で野党時代が長く、党内での勢力争いもあった様子が書かれています。当人はその政局に関与しながらもニクソン政権で補佐官として行政側を経験すると、それ以降は行政側にいます。

 彼は行政官として、内政・外交、その時々の役職に邁進しています。彼が行政官として常に意識していたように感じるのは「アメリカという国への自信と誇り」です。

これはネオコンの主張に見られます。ネオコンはアメリカの民主主義や自由の理念に自信と確信を持って世界中を民主化しようと試みます。

 ラムズフェルド氏も例にもれず、中東に対して早い段階から危険な印象を持っているように感じる節がところどころに見られます。

本書の後半ではイラク戦争の正当性について書いている部分が多いですが、それでも彼の目を通してみる、最も勢いと自信に満ちたアメリカは大変面白いものがあります。

・終わりに

 ネオコンの詳細については今度ロバート・ケーガンが書いた「ネオコンの論理」と本書の後半の内容を合わせながら紹介できたらと思います。

2021年はアメリカにとっては9.11から20年ですが、この節目の年に代表的な関係者が次々と亡くなっています。

 イラク戦争を率いた国防長官(ラムズフェルド氏)と国務長官(パウエル氏)の両者共にいい指導者の例であったと私は考えます。

確かにイラク戦争という部分だけ見ると、ダメな印象を受けるかもしれませんが、忘れてはいけないのはそれはあくまで一部に過ぎないということです。

 ラムズフェルド氏は史上最年少で国防長官に就任してますし、史上最年長で国防長官にも就任しています。パウエル氏も黒人で初の統合参謀本部議長の座についた優秀な人たちです。

まさにラムズフェルド氏の知の警句「known and Unknowns」です。

私たちが知っているのはほんの一部(Known)に過ぎず、その詳細なことを私たちは知らない(Unknowns)のです。

 よくも悪くも21世紀のアメリカの方向性を位置づけた一人であるラムズフェルド氏の自伝、今後も読み進めますけどもやはり楽しい内容です。

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