ボードゲームでスピード感(時間)の表現は可能か
サッカーをテーマとしたUNOZERO(ウノゼロ)というアブストラクトゲームを製作し、勝ち方をまとめ、現在公式戦ルールを検討しています。本ゲームの魅力であり課題として非収束の無限ゲームという特徴があり、公式戦においては確実に有限ゲームとするための特別なルールが必要です。そのルールを模索するために様々な角度から検討を続けました。
私に大きな影響を与えたものとして、開発当初に読んだゲームデザインのイロハに関する書籍があります。その中でテーマ選びはとても重要であり、スピード感が魅力のスポーツはボードゲームのテーマとしてあまり適していないとの趣旨の事が書かれていました。スピード感を表現しにくいボードゲームでわざわざスポーツをテーマにしなくても良いとの見解です。確かにその通りだなと思いつつ、他ゲームとの差別化の観点では面白いと思い、また、もしスピード感の表現に成功すればボードゲームの新たなテーマを切り開くヒントになるのではないかと思い、そのまま製品化しました。
スピード感の表現のために必要なルール
サッカーをテーマとすることを決めた開発当初から、ゲームメカニクスに時間の概念を組み入れると面白いかもしれないとは思っていました。検討した中にリアルタイムというゲームメカニクスがありますが、ターンという概念が無いものを指していますのでアブストラクトゲームである本ゲームには適用できません。
様々な角度から検討した結果、今回公式戦ルールに組み入れたいと考えているのはターンという概念はあるが、各プレイヤーが考える時間の総量に上限を設定し、それが勝敗に直結するというゲームメカニクスです。難しく言いましたが要は各プレイヤーに持ち時間を設定することであり、例えば、持ち時間を15分に設定し、その持ち時間がゼロになったプレイヤーは即負けというルールです。それってただのチェスクロック方式では、と思った方もいると思います。その通りです。
将棋、チェス、オセロ等のアマチュアの世界では持ち時間の概念は当たり前に存在しており、1秒単位で持ち時間を計測する方法をチェスクロック方式と言います。ただし、主に大会の進行をスムーズにするためのサポート的なルールという扱いです。本ゲームでは勝敗に直結する主のルールとして取り入れることで、「ゴールすること」と「有効に時間を使うこと」に、同じ価値をもたらしたいと考えています。即ち、チェスクロック方式をゲーム進行のサポート役から主のルールへ格上げします。持ち時間と無限ゲームの融合により、短い時間でミスのない手を模索することや、双方の残り時間次第では守りを固めて時間を稼ぐことが有効な戦術となり得ます。
持ち時間の計り方
持ち時間のルールを主として入れるのであればコンポーネントとして時間を計るためのチェスクロックが必要かもしれないと思いましたが、スマホ普及率が高い日本では不要です。スマホにてチェスクロックの無料アプリを取得するだけです。販売しているチェスクロックと同じようにワンタッチで操作できますし、正確です。更に時計も見やすく、ボタンの範囲も広いのでとにかく対戦に集中できます。
時間によるゲームメカニクスの化学反応
我が家では一人の持ち時間を15分〜20分を設定することが多いです。当たり前ですが、30分〜40分で確実に収束します。そして、ボードゲームでありながらスピード感の表現が可能になります。ルールがスピーディーにゲームを展開することを両プレイヤーに求めるからです。
化学反応と記載したのは、持ち時間とアブストラクトゲーム(無限ゲーム)の相性がとても良く、持ち時間を勝敗に直結させることで、劇的に面白いゲームに変化したためです。一つは時間がなくなってくると焦りが生じ、ミスをしやすくなるため、ゴールが決まりやすくなります。二つ目に早く考えをまとめることや時間稼ぎが有効な戦術となり、短い時間の中でヒリつくような心理戦が展開されるようになります。アブストラクトゲームでありながら、サッカーというテーマにグッと引き寄せることができます。
また、もう一つの化学反応については下記記事をご参照ください。
時間で収束させるルールに問題はあるのか
多くのボードゲームに収束させるためのルールが存在します。決められたポイントに達したら終了、決められたターンが完了したら終了、マスを全て埋めたら終了、等です。非収束であり無限の局面をもつゲームは収束性が低いと表現され、あまり良しとはされない傾向にあります。
しかし、国内で高い人気を誇る将棋は元々は非収束の無限ゲームです。収束性をもたらすために事後的に設定されたのが、4回同一手順、同一局面になった場合、引き分けとして収束させる千日手という特別なルールです。このUNOZEROでは将棋の千日手というルールの代わりに時間で収束するという特別なルールを設けます。
各プレイヤーの持ち時間で収束させるゲームを考えてみる
アブストラクトゲーム(無限ゲーム)と持ち時間の相性の良さは身をもって体験しました。ゲームを途中で止められないので説明書を何度も読み返さないといけないような複雑なルールは適していないかと思います。あとはボードゲームの世界観と時間で収束させるというルールがマッチしているかどうかだと思います。例えば、サッカーのような制限時間のあるスポーツ、時間内に列車を目的地へ到着させる、爆弾魔や人質をとる犯人対交渉人、等が思いつきます。
このゲームメカニクスでは早く自分の考えをまとめ相手の持ち時間を奪取することでミスを誘い勝つ確率を高めることと故意にループさせ時間稼ぎをすることも戦術の一つに加わることが特徴になるかと思います。また、繰り返しになりますが、これだけスマホが普及している現在、ルール上必要だからといってボードゲームのコンポーネントとしてのタイマーやチェスクロックは不要です。
時間制としているボードゲームカフェも多いので日本では案外重宝されるジャンルに成長するかもしれません。興味がある方は一緒に持ち時間奪取という新たなゲームメカニクスのジャンルを作っていきましょう。
参考文献
・トム・ヴェルネック(訳:小野卓也)「ボードゲームデザイナーガイドブック ボードゲームデザイナーを目指す人への実践的なアドバイス」スモール出版、2018年
・Geoffrey Engelstein,Isaac Shalev(訳:小野卓也)
「ゲームメカニクス大全 ボードゲームに学ぶ「おもしろさ」の仕掛け」翔泳社、2020年