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知らない間に「フリーランスこそ正義」と思い込んでいた話。

約一年半ぶりに会った友人と、名古屋名物味噌煮込みうどんを食べた。

彼女は長年働いていた会社を辞めて、これから半年間の留学をするらしい。

以前から「海外に行きたいんだよね」と聞いていたので、とうとう実行に移すのか!と、私もなんだか嬉しかった。

彼女は「戻ってきてからのことはまだ決めていないけれど、なんとかなるかなあと思って」と笑いながら、いくつかやりたいと思っていることを話してくれた。

それを聞きながら、私の中の「働く」とか「仕事」の価値観がふと変わった。


私は、8年前に会社を辞めてフリーランスになった。

当時の私は、毎日同じ場所に通い、同じ場所に座り、毎日同じ仕事をする。
それがすごく窮屈でしんどくて嫌だった。

その会社は本当に忙しくて、午後2時ぐらいに「私って今日トイレ行ったっけ?」と思うこともよくあった。
前任の人からは「膀胱炎に気をつけて」と引き継ぎを受けた。
私は膀胱が丈夫だったのか一度も膀胱炎にはならなかったけど。

仕事が増えても給料は増えず、有給を取りたくても取らせてもらえず。
残った有給が消えていくのが悔しかった。

それでも「この年ではもう正社員で雇ってくれる会社はないから」と、「正社員」という肩書きを守るために必死に働いた。

でもある日、私より長く働く2人の女性を見て不安になった。

上司は私より少し年上の女性で、毎日ため息をつきながら仕事をしていたし、月曜日は特にイライラしていて、パソコンのエンターキーを叩きつけるように打つ人だった。

もう一人の先輩は、影で「お局様」と呼ばれている女性で、誰かがミスをすると社員への一斉メールで指摘して「公開処刑」をするような人だった。
いつも不機嫌で舌打ちは日常だったし、あと何故か髪の毛先をずっとハサミで切っていた。
椅子の周りや、洗面所の床は髪の毛だらけだった。今思うと何かしらストレスを抱えていたのかもしれない。

上司は私の10年未来、先輩は私の5年未来。
ここにいたら楽しい未来はないのかもしれない。
そう思ったら、私は静かに絶望を感じた。

そんなタイミングで、起業している女性と出会った。
私の人生の舵は「起業」へとするすると向かい、そこから一年ほどして会社を辞めた。

起業の世界で出会う人たちは、会社員時代には出会ったことのない人たちばかりで、何もかもが輝いて見えた。
小さな会社で日々の不満を抱えて生きていた私にとって、そこはとても煌びやかで無限の可能性に満ちている世界だった。

会社員よりフリーランスの方が自由だしなんでもできる。好きなことが仕事になる。年収1000万円稼ぐことだってできるし、旅をしながら仕事をすることだってできる。会社員時代のように嫌な人と関わる必要も、煩わしい人間関係もない。好きな人とだけ繋がればいい。

フリーランス、最高!そう思っていた。


あれから8年。
平日に好きなところへ行けるし、好きなことが仕事になっている。
1000万円は稼げていないけれど、どうにか暮らせるだけの収入は得ている。

だけど、いつの間にか自分がものすごく狭い世界にいることに気づいた。

プライベートと仕事の境目が曖昧になり、いつも仕事のことが頭の隅にある毎日。
好きな人、つまり同じような価値観を持つ人とだけ繋がって、同じコミュニティの中で仕事をする。
いつでも同じような話題、同じようなファッション、同じような…。

もちろん、フリーランスになって自由度は高くなった。
後悔はしていないし、得たものもたくさんある。
周りの人や環境にも恵まれているし、これからもやめる気はない。

でも、知らない間に世界は狭くなっていた。


少し前にこんな記事を書いた。

フリーランスになった頃からずっと請け負ってきた仕事が、突然終了になった。

どうしようかなと考えて、自分の仕事の発信を増やしながら「それじゃ追いつかないかも」と思い、派遣会社のHPやクラウドワークスで仕事を探したりしてみた。

そこにはいろんな仕事があって、狭かった私の世界が少し広がるような感じがした。

元々は自分がいた「会社」という世界。
窮屈で、嫌で嫌で仕方なかった世界。

でも、もう一度そこに足を踏み入れてみてもいいのかもしれない。
なぜかそう思った。


今日会った友人にこれからの話を聞いたあと「実は私も、最近仕事を探しててね」と最近の顛末を話すと「そうなんだ!」とちょっと驚いたあとで「まあ、いろんな働き方を選んでいけばいいよね」と言った。

彼女も会社員として働きながら、副業で自分で仕事をしていた経験がある。
だから「会社員としての目線」も「フリーランスとしての目線」も分かる。
どちらにも、良さはあるし大変さもあることを知っている。

彼女と話しながら、知らない間に「フリーランス」という枠に縛られていた自分に気付くことができた。

そうか。
どこでどう働いても、別にいいのか。
フリーランスだけじゃなくてもいいんだ。
どちらもやっていけばいいのか。そうか。


彼女と別れた帰り道、派遣会社からエントリーしていた仕事の「社内選考が通りました」と連絡が来た。
「すすめてください」とお願いした。

それは週に3日の事務仕事。
カメラマンやライターの仕事とも両立できる。

まだ決まったわけじゃないけど、新しい扉が開く気がして少しドキドキする。


いつの間にか「フリーランスでがんばらなきゃいけない」「フリーランスこそ正義」と思い込んでいた。

でも、人生まだまだ選択肢はたくさんある。
勝手に狭くしていたのは、ほかでもない自分自身だったんだなあ。


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オカダトモコ 旅が好きなライター / カメラマン
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