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サンタの服が赤いのは
記事「歳時記を旅する57〔生誕樹〕中*踵なき紙の長靴クリスマス」で取り上げた絵本はこちら。
表紙には、三角形の紙のオーナメントが描かれています。記事ではこれが句のような長靴や靴下を模したものと書きましたが、実際にそうなのかはわかりません。
裏表紙には、暖炉の前に吊られた靴下の絵が描かれています。
絵本の詩の原作は、1822年のクレメント・クラーク・ムーアの作とされる「Account of Visit from St.Nicholas (聖ニコラス来訪の物語)」で、現在は「The Night Before Christmas(クリスマスの前の晩)」の名で知られています。
絵本の絵を担当したホリー・ホビー氏は、この古典的な名作の絵を描くにあたって、「家は伝統的様式にして、ただし、登場する家族は現代の服装にしたい」と、あとがきの中で書いています。
登場するサンタクロースの服も現代風に書かれています。
サンタクロースの服については、詩の中では、
❝He was dressed all in fur, from his head to his foot❞
頭からつま先まで毛皮、としか書かれていません。
1931年になって、アメリカのコカ・コーラ社が、コカ・コーラを売れゆきの停滞しがちな冬の時期に、クリスマスキャンペーンでサンタクロースを登場させました。その服の色がコカ・コーラのイメージカラーの赤。
現代のサンタクロースの服が赤いのは、このキャンペーンが長年にわたり大々的に行われた影響によるものだそうです。
そうなると、始めのサンタクロースの服はどう描かれていたのか知りたくなります。
1912年に発行された絵本 『'Twas the Night Before Christmas』(著:クレメント・C. ムーア 、 イラスト:ジェシー・W. スミス)を見てみます。
詩のとおり、帽子、上着、靴まで毛皮でできています。色は毛皮の素材のままの色というのでしょうか、茶色です。
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illustrated by Jessie Willcox Smith 1912
もう一冊、その19年後の1931年に出版された絵本『THE NIGHT BEFORE CHRISTMAS』(著:クレメント・C. ムーア 、 イラスト:アーサー・ラックハム)を見てみます。
こちらは頭から靴の先まで赤い服を着ています。上着は毛皮のようで、裏が起毛になっているようです。
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illustrated by Authur Rackham 1912
この絵本が発行されたのが1931年。コカ・コーラ社がクリスマスキャンペーンではじめて赤いサンタクロースを登場させた年です。
この絵本の絵本のサンタクロースの服が赤いのは、コカ・コーラの広告の影響によるものか、と思いたくなりますが、待てよ、です。
クリスマスキャンペーンは年も押し詰まった12月に始まったはずなのに、そのあとにこの絵本が描けるはずがありません。
すると、この絵本のサンタクロースの赤い服は、コカ・コーラの広告の影響によるものではない、ということになります。
コカ・コーラ社のHPをみると、そのことが明確に書かれていました。
作品を制作するにあたり、サンドブロムはクレメント・C・ムーアによる1822年の有名な詩「A Visit From St. Nicholas(聖ニコラウスの訪問)」を参考にしました。そして、この詩で描写されている聖ニコラウス像が、陽気で親しみやすく、恰幅の良い、人間味あふれるサンタクロースのイメージの土台となったのです(ちなみに、サンタクロースの服が赤いのは『コカ・コーラ』を象徴する色だからとよく言われますが、サンドブロムが描く前にも、赤いコートを着たサンタクロースの絵は存在していました)。
※太字は筆者
この絵本もその一つのようです。
よく見ると、コカ・コーラ社のサンタの服は、1912年の絵本のサンタとデザインが似ています。当時の革の上着の標準だったのかもしれませんが、太いベルトや袖の折り返しなどはソックリです。
コカ・コーラ社のサンタクロースを描いたイラストレーター、ハッドン・サンドブロムは、デザインについても、これらの絵本のサンタクロースを参考にしていたのかもしれません。
現代のサンタクロースの服のイメージが赤いのは、コカ・コーラ社の広告がそのイメージの定着に大きな影響を与えたようですが、コカ・コーラ社の広告が始まりだと早合点してはいけないということがわかりました。
(岡田 耕)
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