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歳時記を旅する12〔雛〕後*揺るるたび水閃きて雛流る
磯村 光生
(平成九年作、『花扇』)
「上巳の節句」のお祓いは、『源氏物語』にも記されている。
光源氏は、帝が寵愛する朧月夜の君との密かな逢瀬が発覚し、須磨へ流される。
一年後の三月初めの巳の日、須磨の海岸で陰陽師に祓いをさせて、舟に人形を乗せる場面がある。
光源氏は、
「まるであの人がたは私自身のようではないか。波にもてあそばれて漂ってゆく。何だか流されるのは私で、ここに座っているのは、うつろな人がたに思われるよ。」(田辺聖子『新源氏物語』「須磨」の巻)
と言う。
句は現代の雛流し。
穢れや厄災を負った雛たちが、わずかな波にでも転覆しそうな小舟に乗せられて、早春の柔らかで細やかな波の光に包まれながら、遠ざかってゆく。
(岡田 耕)
(俳句雑誌『風友』令和三年三月号 「風の軌跡―重次俳句の系譜―」)