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読書感想文『スタグフレーション 生活を直撃する経済危機』
はじめに
こんにちは。吉村うにうにです。今回の記事は読書感想文です。よろしくお願いします。表紙画像は、わたなべ - 渡辺 健一郎 // VOICE PHOTOGRAPH OFFICEさんから頂きました。ありがとうございました。
きっかけ
前回noteさんのイベントで『みんなで読書感想文を書く会』に参加させて頂きました。詳細はこちら
というわけで、イベントに参加させて頂き、懇切丁寧に指導して頂いたのに、感想文を作っていないのは、良くないなあと、イベント後、少しずつ書いておりました。元来遅筆なのでやっと出来上がりました。
で、感想文を書いた本がこちら
では、感想文です。タイトルは『スタグフレーションに突入か?』です。
スタグフレーションに突入か?
吉村うにうに
2022年10月。私にとって衝撃的な事件が起こった。以前はお店を選べば750g498円で買えていたフルーツグラノーラが、10月に突如、698円に値上がりしていたのだ。少しでも安い店を探して奔走し、時間と労力をかけて地域の最安値の店を見つけたが、それでも638円だった。
グラノーラだけではなく、パン、ミニトマト、パスタなどの小麦製品と、各種の食料品の価格が上がっている。こういったニュースはそれまでも何度が見ていて、食糧の値上げは困るな、とそれまではどこか他人事だった。それだけに、自分がよく食べるグラノーラの値上げは衝撃的だった。それでも自分の中で、その原因を地政学的要因だと決めつけ、「ウクライナ戦争早く終われば、値段は元に戻る。しばらくグラノーラ我慢しようか?」と、思っていた。しかし、書店で偶然目にした「スタグフレーション――生活を直撃する経済危機」を読み進めるうちに、ここからがスタートだと気づかされた。
2021年ごろから物価が上がっている。それまでは、食料品は内容量をそっと減らすことで誤魔化していたが、ついに本当に値段を上げた。また、食料品だけでなく、ガソリン、電気、ガスなど広範囲な品目が値上がりしている。以前の私のように、他の人もその原因を単なる地政学的要因だけに求めると、今後の判断を誤ってしまう。本書で、現状に起きていることが明確に頭の中に入って来た。
本書によると、ウクライナ戦争以前から、海外では物価は徐々に上がっていた。日本でも、あからさまな食料品の値上がりはなかったものの、食品の質や内容量をそっと減らす「ステルス値上げ」は2020年頃から行われている。それは、目立たぬ形で行われていたが、ステルス値上げに耐えきれない企業が、本当の値上げに踏み切ったのが、2022年の値上げラッシュだったらしい。
今回のインフレは単一の要因ではないという。複数の要因があり列挙すると、①食料や原油価格などの一次産品の値上げ、特に環境負荷の少ない天然ガスの需要拡大、➁アジアの国々の人口増加や経済成長による需要拡大、③米中対立やウクライナ問題などの地政学的要因、④量的緩和策による市場での金余り、がある。さらに、日本独自の要因として⑤円安が加わる。
私はニュースを漠然と見ていて、①と③の要因のみがインフレの原因であると思いこんでいた。そこに円安が加わっただけだと。そうであれば、ウクライナ問題が解決し、米中の貿易摩擦の妥結が加われば、食料品価格も下がるだろう。そのように甘い見通しであった。
長い間、デフレに慣れていたので、モノの価格が上がる筈がないとタカをくくっていた。日本では長期にわたり量的緩和策で市中にマネーを流し続けているのに、物価が上がらなかったのだ。物価も賃金も半永久的にそのままだと思いこんでいた。日本は、物価が上がれば買わないことが商習慣として根付いている。だから、価格は上がらず、その分人件費を削って企業は利益を生むはずだ。そのようなモデルを自分の中で組み立てていた。
しかし、それは幻想だった。企業は売り上げ減を恐れて値上げに踏み切ることを躊躇するが、それにも限界があったのだ。食料品も電気やガスも、原材料費が上がれば価格に反映させない事は難しくなる。これまでは、単に人件費で原材料費の高騰を吸収していたに過ぎない。市中に金が余り、世界的に需要が拡大する中で、ついに一次産品の値上げをきっかけに、製品にも価格転嫁される時が来たのだ。
今回の値上げラッシュは、オイルショックと状況が似ているという本書の指摘がなされている。つまり、オイルショック時は、ニクソンショックによるドルの価値下落に対して量的緩和策を取り、金余りの状況が下地になって、そこへ原油価格が上がったという。政治学的な要因による原油価格の高騰だけが原因ではないらしい。今回は、世界的な経済成長プラス量的緩和などの基礎の要因に、ウクライナ情勢などによる一次産品の値上がりがとどめを刺しているという。両者ともに下地があって、火を点ける事件があったという点が構造として類似しているらしい。
しかし、オイルショック時と現代のインフレ下では日本政府の対応は真逆である。ここで、「なぜ」という強い疑問が生じた。
オイルショック時は、ガソリンの節約や節電など、需要を減らすことで物価を下げようとしていたという。これは、インフレを潰すという意味では正しいように思える。需要が減ると供給との均衡点で決まる価格は下がるからだ。
それに対して、現代では補助金を投じてガソリン価格を下げたり、所得税が非課税の世帯に補助金を交付したりと、どちらかというと、インフレ下で苦しくなる企業や国民生活の救済に重点が置かれている。これは、国民には人気の出る政策である。しかし、肝心のインフレを防ぐという観点から立つと、救済策とはいえ、お金をばらまくことで需要を喚起しているという見方もできる。需要が増加すれば、やはり供給との均衡点になる価格は上昇するという。
この真逆の対策は、インフレを抑えるということだけを目標に擦れば、前者の対策が正しいと思える。ただ、需要を減らす対策はマクロ経済的に見れば、国民所得が下がることになる。これは、不景気になることを意味する。
つまり、オイルショック時には、不景気になる日本経済の体力が残っていたが、今回のインフレでは、長らく続く不景気下で、もうこれ以上景気を下げる体力は残っていない。すなわち、今回のインフレ対策は、急場しのぎで困窮者にお金を配るだけの政策にならざるを得ない。
これ以外にも、打つべきインフレ対策があるのだが、日本ではそれが実施できない事情があるという。
まずは金利の上昇。これにより、通貨供給量が減り、価格は下がる。しかし、住宅ローンを借り入れている個人、借入金を持つ企業、国債の利払いが増える国にとっては、不都合なことになる。国債を引き受けている日銀も望んでいない。国際価格の下落をもたらすからだ。また、日本政府が大量の赤字国債を抱えている状況では、金利を上げることは自らの首を絞めることになる。それに加えて景気も悪化する。まずその選択肢はなさそうだ。
続いて円安の是正。日本企業が高度成長期にあった輸出主導型のビジネスモデルが主体であれば、円安は歓迎すべき状況だった。輸出した代金を円に替える時に、円安であれば大きな利益を得られるからだ。しかし、現在の日本の製造業は輸出主体ではなく、労働力の安い海外に拠点を置き、現地で生産する方向にシフトしている。これでは、円安の恩恵は受けられない。しかも、円安の是正は非常に難しい。例えば日本政府がアメリカドルを売って、日本円を買い支えるには、大量の外貨準備が必要だ。だが、日本政府が円を買い支えようとしても、世界中の投資家が円売りに転じたら、とてもその流れに逆らって円高に誘導することはできない。今回は、円買いの介入タイミングを秘密にすることによって、なんとか周囲の機関投資家に邪魔をされないように工夫していたようだが、おそらく効果は限定的であろう。
これらの状況を鑑みると、日本政府のインフレ対策は場当たり的な企業や個人の救済策を打つしか手段が残っていない。
しかも日本では、長引く不況で、国民の購買力が低下しているため、不景気下のインフレになることが予想される。これはスタグフレーションと呼ばれ、企業が材料コストの値上がりを人件費の削減によって補おうとしてきた結果生じるものである。つまり、利上げも需要を下げる政策も不景気を招くので、元々不景気の日本ではその政策は使えないことになる。
こういった話を読むと、日本はこのスタグフレーション下では、もはや手詰まりになったような気がする。景気を悪化させられない日本経済の事情、財政赤字的にはインフレを歓迎する政府、円安のメリットを生かせない企業、これではインフレが進むだけではないのだろうかと思えてしまう。
だが、皮肉なことに、ここ最近、岸田内閣が実施もしくは検討した、国民負担を増す政策、例を挙げると後期高齢者の医療負担増、消費税増税の議論、道路利用税の創設、国民年金の納付期間延長など、はインフレを抑え込む方向に進む。これらの増税的政策は、国民所得を下げることに寄与するので、需要を下げることにより、価格は下がる方向に進むからだ。恐らく、岸田内閣はこれらの政策をインフレ対策を目的として打つつもりではないだろうが、結果としてもしこれらの国民負担を減少させる政策は、インフレの軽減には理にかなっていると思われる。ただし、多くの国民を困窮に陥れ、彼らの怨みを買うことを度外視すれば、の話であるが。
結局、インフレに対しては、個人としては泣き寝入りしかないのではないか? そんな疑問を持ったが、著者は、いくつかの生活暴威のための提言をしている。
まずは、インフレ下で商品の価格が上がる順序を意識することの大切さを伝えている。これは、加工度が低く、原価に占める原材料費の割合が高い食品がまず値上がりし、加工度が高く、原価に占める人件費の割合が高い工業製品が後で値上がりするのだという。この理論で行くと、現在は、小麦製品や果実、野菜、乳製品などの値上げラッシュが続いているが、今後はそれが家電製品や、自動車、マンションの価格上昇に繋がるという。つまり、後半に価格上昇が起きるものは今のうちに買っておくのも戦略だという。これは、今後のライフプランを考えるうえで、重要な示唆を与えてくれたと思う。
また、家賃は硬直性があるので、インフレ下でも上がりにくいという説明も、生活実感とマッチしており、住宅購入か賃貸かという選択に参考になると思われる。
本書の意見に、懐疑的な目を向けてしまったのは、投資についてのアドバイスだった。紙幣の価値が下落する状況では、銀行預金だけではハイリスクという所までは、得心の良く話である。
しかし、投資先として、金投資を勧めないというところと、外貨預金を勧めている箇所は、これまで投資の勉強と経験を積んできた私から見ると、おや、と思ってしまう。
金は、筆者も触れているが、金そのものでは決して利益を生まない商品である。これは、単に値上がり益のみを狙う商品であって、分配金のようなものはない。それは正しいと思う。だが、金の本当の価値は、他の通貨や投資商品と異なる値動きをすること自体にある。特に、『有事の金』と呼ばれるように、何か世界的に投資商品や通貨の暴落が起きた時には、金が買われるケースが多々あり、投資の保険としての機能を有している。これが最大の強みであり、ポートフォリオに組み込むべき理由だと思う。
もう一つの外貨預金であるが、こちらも、円安の時代には外貨を買っておくというのは正しい戦略だと思う。ただ、手段が良くないのではないか。外貨預金は両替手数料が高く、購入時にも売却時にも手数料がかかる。これを勧めるのであれば、FXや外貨建ての債券など、他に手数料が安い商品を勧めるべきではないのかなと思った。恐らく著者は、外貨預金なら、投資初心者でも始めやすいという親切心からこれを勧めたのではないかと思われる。
今回の読書で、自分のこの値上げラッシュに対する心構えが甘かったことに気づかされた。「不動産は東京オリンピック後ならばバブルがはじけて買いやすくなる」「値上げはウクライナ情勢が落ち着けばひと段落するだろう」などと、私は情勢を見誤っていた。スタグフレーションはただでさえ対策を取り辛い性質のものである上に、政府は、内閣支持率以外の要因では、インフレが急激でなければ抑える意志はないようだ。我々は目減りする所得でこの状況を乗り切らなければならない。それは、一定の覚悟を必要とする。
しかし、何が起きているのか分からないまま「今月はこれが値上がりした」と愚痴をこぼすだけでいるより、現状を認識し、今後の展開の予想をしながら生活している方がいざという時の動揺が少なくなる。しかも、生活防衛手段は無いわけではない。株式や金への投資に重点を置き、収入を増やす手段を考え、不動産は早めに買うか、上昇しない賃貸に長く居続ける。そして、不要なものは買わない。こういった意識の持ち方で、ある程度のスタグフレーションであれば対応できる。今後も相次ぐ増税に、こまめな値上げは続くであろうが、長期的な視野に立って、生きていくために必要な物とそうでない物を見極めながら、懸命にお金の使い方を模索していければと思う。
早速、分譲マンションの広告を見てみたが、どれも高値になっていて購買意欲を失いそうになる。もしかして、手遅れか、いやまだこれから上昇するから頑張って買っておけ、という二人の自分がせめぎ合っている。
最後に
感想文の書き方がわからない中、noteさんのイベントに参加することができ、何を書けばいいのかという方向性を示して頂けたことは有意義でした。ちょっと、長い感想文になりましたが、次回以降も何らかの感想文を書ければいいなと思います。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。