【開催レポート】カルヴィーノ『不在の騎士』を語る読書会 2023年6月17日(土)
水野ゼミの本屋の書店主、itatana(イタターナ)さまが主催するイタリア文学の課題本型読書会。2023年は、イタロ・カルヴィーノ生誕100周年を祝して、カルヴィーノ作品の連続読書会を行います。
「我々の祖先」3部作最後となる、『不在の騎士』を語る読書会が開催されました。
参加者は主催者を含め5名。前回『まっぷたつの子爵』や『木のぼり男爵』を語る読書会の参加者の方が集まりました。
あいさつもそこそこに、感想が飛び交います。
不在の騎士アジルールフォと復讐に燃える青年ランバルド、アジルールフォを慕う女騎士ブラダマンテなど人間模様を修道女テオドーラが書いている、という設定の本作。
最後に明かされる修道女の正体と複雑な構成に驚きの声や難しかったという意見が。最初は冗長な文章が後半急展開をみせるなど、語り手テオドーラの気分屋な筆に躍らされた印象。
ところどころ「カルヴィーノならもっと詳しく書くはず」と思った場面は、テオドーラが書いたために想像力が不足し、読者にうまく伝わっていないのではという意見もありました。
一方で3部作のなかで一番コミカルという意見も。サラヘン軍との戦いで、騎士は名乗りをあげ、異国との戦いであるため戦場には通訳が駆け回り、ランバルドは親の仇と思った人物を間違える、などギャグ漫画のような展開をみなさんおもしろがっていました。
傷一つない甲冑を持ち、規律を重んじる不在の騎士。周囲の人はその完璧さに憧れたり疎んだりします。最後に彼はある事実の証明によって、騎士でいられなくなり、甲冑を残して姿を消します(彼に生身の体はありませんが)
騎士であることのアイデンティティを失い、完璧さを失ったために、消えたのかもしれません。居場所があることは存在価値があること、不在の騎士は完璧であることが存在価値であるため、居場所を失ったという意見がありました。
不在の騎士アジルールフォの本名はとても長いです。主催者いわく、イタリアでもこんなに長い名前の人はいないそうです。なぜ彼の名前は長いのか。不在の騎士とは人々の意思が作り出すイメージの集合体で、彼を思い浮かべる人によって名前が変わるため、すべてを合わせると長くなるのではないかという意見が。この辺りも呼ぶ人によって名前が変わるグルドゥルーと関係がありそうです。
個性的なキャラクターが多くいますが、グルドゥルーというキャラの影が薄いと感じた人も多くいました。
不在の騎士たちは進軍中にグルドゥルーと出会います。彼は見えたものになりきる滑稽な人物です。存在しながら、自分が存在することを知らないグルドゥルーと、自分は存在すると信じているものの存在していない不在の騎士の組み合わせが面白いと、皇帝シャルルマーニュがグルドゥルーを不在の騎士の従者にしてしまいます。
自分が存在していることをわからないまま、周囲の人に存在を認められ居場所を見つけたグルドゥルーは不在の騎士と対比関係にあります。にもかかわらずキャラクターの扱いに困ってしまい、登場が少なくなったのではという意見がありました。グルドゥルーが作中で活躍すれば、また違った『不在の騎士』が見られたのかもしれません。
今回で「我々の祖先」3部作をすべて読みましたが、どれが一番好きかという話に。
『不在の騎士』は3名が、『木のぼり男爵』は2名が一番好きと答えました。
主催者の方のコメントが印象的です。
あなたはどれが一番好きですか。
【次回開催案内】
ダンテ『神曲』を語る読書会 地獄篇
2023年8月19日(土) 14時~15時30分
水野ゼミの本屋
【これまでの開催レポート】
2022年8月21日(日) 「ピノッキオ」を語る読書会
2022年10月8日(土) 『クオーレ』を語る読書会
2022年12月17日(土) 『ジャン・ブラスカの日記』を語る読書会
2023年2月18日(土) 『まっぷたつの子爵』を語る読書会
2023年4月15日(土) 『木のぼり男爵』を語る読書会
文責:青谷夏野
以上