マガジンのカバー画像

蒼槍高原

3
風、梅、無人駅
運営しているクリエイター

記事一覧

「無人駅」

「無人駅」

「君は何をしとるんだ…」
僕を迎えにきたその人が、改札の向こう側からすでに、非難の言葉を口にしているのがわかる。ややくたびれているようにも見えるが、その人はやはり綺麗で、若い。呆けた僕をまっすぐ睨みつけながら、人のいない改札を、ヒールを鳴らして歩いてくる。彼女はいつでもヒールを履いているんだった。懐かしい音を聞き、ほっとするのがわかる。
「すみません、先生」
僕が言うと
「ン、とりあえず…」
と一

もっとみる
「梅」

「梅」

カタカタと揺れる窓の近くで
垂れ流しのTVをぼんやりと見た。
お父さんはぽりぽりとなにかしらの菓子を食べている。

詳しいことを聞いてこないが
全く無関心というわけではない夫婦のそばは
居心地がよかった。

前から夫婦と住んでいたかのような
そんな気分で、自分が座る場所や部屋の景色が、
馴染みあるもののような気さえした。

インターホンが鳴り、お母さんが
「はーい!」
と大きな声を出して、よっこい

もっとみる
 「風」

「風」

気づくと霧の中だ。
ごうごうと、なにかの鳴き声のような
低い音が周りから聞こえてくる。

しかし視界は真っ白だ。
ちくちくとした地面。

風もやたらと強い。
なんでこんなところに寝てるんだ、僕。

寒い。
なんだ、ここは。

なんで僕はここにいるんだ。

朦朧としている。
これが夢なのか
現実なのかもわからない。

とにかく腹が減っている。
何か食いたい。
カレーうどんが食いたい。

そのまま、意

もっとみる