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蒼槍高原

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風、梅、無人駅
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「無人駅」

「無人駅」

「君は何をしとるんだ…」
僕を迎えにきたその人が、改札の向こう側からすでに、非難の言葉を口にしているのがわかる。ややくたびれているようにも見えるが、その人はやはり綺麗で、若い。呆けた僕をまっすぐ睨みつけながら、人のいない改札を、ヒールを鳴らして歩いてくる。彼女はいつでもヒールを履いているんだった。懐かしい音を聞き、ほっとするのがわかる。
「すみません、先生」
僕が言うと
「ン、とりあえず…」
と一

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「梅」

「梅」

カタカタと揺れる窓の近くで
垂れ流しのTVをぼんやりと見た。
お父さんはぽりぽりとなにかしらの菓子を食べている。

詳しいことを聞いてこないが
全く無関心というわけではない夫婦のそばは
居心地がよかった。

前から夫婦と住んでいたかのような
そんな気分で、自分が座る場所や部屋の景色が、
馴染みあるもののような気さえした。

インターホンが鳴り、お母さんが
「はーい!」
と大きな声を出して、よっこい

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 風

気づくと霧の中だ。
ごうごうと、なにかの鳴き声のような
低い音が周りから聞こえてくる。

しかし視界は真っ白だ。
ちくちくとした地面。

風もやたらと強い。
なんでこんなところに寝てるんだ、僕。

寒い。
なんだ、ここは。

なんで僕はここにいるんだ。

朦朧としている。
これが夢なのか
現実なのかもわからない。

とにかく腹が減っている。
何か食いたい。
カレーうどんが食いたい。

そのまま、意

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