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すべての道はミスドに続く

この冬、ミスドとピエール・マルコリーニがコラボをやっている。チョコと可愛いものが好きな身としては一石二鳥の状態だ。しかし、一つ問題がある。電車の距離にしかミスドがないのである。なにかのついでに買えばいいでしょう、と思われるかもしれないが、私は生粋の引きこもりなので「なにか」があまり発生しない。これは結構な問題であった。

コラボ開始からしばらくたって、ようやく都会に出る機会を得た。いそいそとミスドに向かう。私の場合、一度で食べられるちょうどいいドーナツ量は2つくらいなのだけど、滅多に来られないから…と言い訳をして3つ買った。上にクリームなんか乗っちゃっているオシャレなドーナツも買った。

それらを店員さんがテイクアウト用の袋にいれてくれるのだが、3つの組み合わせが悪かったのか、その方がまだマルコーニ慣れしていなかったのか、見るからに四苦八苦していた。クリームが袋につかないように紙のガードのようなものを差し込んだり抜いたり、ドーナツの角度を変えたり、何度も何度も試行錯誤を重ねていた。ハラハラして見てしまうのだが、あんまりじっと見てたら急かされているように感じられるかもしれないと思い、必死で視線を微妙にずらす。
私なんぞがクリームが乗ってるドーナツなんか買ってすみません、という謎の謝意すら湧いてきた。ようやっと配置が整ったときは心底ホッとした。あんなに大変そうだったのに、店員さんはニコッとして「気をつけてお持ちください」と満点の爽やかさで言ってくれた。気をつけて家に帰るぞ!と嬉しくなった。言葉ひとつで人を幸せにできるなんて、接客業って本当に素敵な仕事だ。

持ち帰ったドーナツたちは可愛くて美味しかった。2つだけにしておけばいいのに、3つを一度に食べたせいで気を失いそうになったし、1つ目で甘さを感じる機能が壊れたので2つ目と3つ目に悪い気がした。でも、ドーナツを3つ買ったのに1つだけ食べるなんてどうしても出来ない。そういう人に私はなれない。とにもかくにも大満足なミスドタイムだった。

プリティー・マルシカク

さて、そんなピエール・マルコーニコラボだが、ほどなくして第二弾も発表された。これもまた見た目が可愛らしくて、ぜひ食べたいと思った。しかし向こう数週間は一人で都会に出る予定が見つからない。どうしたものかな。薄情なようだが、私はミスドのためだけに電車に乗るつもりはない。電車代でドーナツがひとつふたつ買えるなあ、と考えるとかなり腹が立つからだ。仕方がないので、SNSで「ミスド マルコーニ」で検索して気を紛らわす日々を送った。

歩いて行けばいいのでは?
ある日、とつぜん思いついた。天命である。Googleマップで検索してみる。マップ上ではすぐそこにあるように見えるが、実際にルートを検索してみると全然すぐそこではない。だけど私は休みの日には近所を右往左往してスーパーや八百屋をハシゴしまくっている。iPhoneに記録された歩数からざっくりと逆算した限りでは、そうした右往左往とミスドへの道のりはさほど差がないようだった。

そうして、私はすぐそこにないミスドに歩いていくことにした。もうこの土地に住んで3年目になるのに、しばらく歩いているだけですぐに知らない道になる。美味しそうなケーキ屋さんを見つけて気持ちが揺らいだり、本屋さんがあって嬉しくなったり、なんの店なんだよとツッコミを入れたり、一人なりに楽しい道のりだった。

そうこうして、いよいよミスドについた。ちょうどいい量は2つであると前回改めて痛感したばかりだが、たくさん歩いてきたのでやっぱり3つ買った。今度はなぜか箱に入れてもらえたので引き渡しはスムーズだった。来た道をのしのしと戻る。ミスドで得るカロリーを先に消化しているのだと思えば足取りも軽かった。

事故現場

ところで、私は何かと小さな失敗するバフが生まれつきかかっている。ハート型のドーナツは表面が赤色のなにかでコーティングされているのだが、箱から取り出すときに普通に落とした。こういう失敗にはかなり慣れているため落ち込むことはなく、「よぉ、久しぶりだな」とエレン=イェーガーみたいなことを思った。前回の反省を活かし、最初に2つだけ食べて次の日にもう1つ食べる作戦をとったが、やっぱり1つ目で甘みを感じる機能は壊れた。2回とも1つ目に食べたドーナツが一番美味しかったが、たぶん毎日1つずつ食べないと本当の評価にはならないと思う。

このドーナツ旅で、気付かされたことがある。電車に乗るという行為は、思いのほか気合がいるということだ。電車に乗ってミスドに行くより、歩いてミスドに行くほうが断然ラクだった。所要時間は前者のほうが遥かに短いにもかかわらずだ。私は別に電車が苦手ではなく、むしろ好きな方だ。高校も大学も電車通学だったし、一人暮らしするまでは会社へ一時間以上かけて電車で通っていた。それでも気合はいるものらしい。こういう無意識の疲れに気づくことは、良いことだと思う。

それだけじゃない。自分の家から歩いていくと、場所への気安さがぐっと増す。その日行ったのは初めてお目にかかるミスドだったのに、入るのになんの躊躇いもなかった。これが電車で行っていたら、多少は緊張していた気がする。そもそも知らない駅に降りるだけ緊張するのだし。歩くってすごい。

この発見が嬉しかったので、これからは近くにないお店にどんどん歩いていこうと目論んでいる。次はあなたの街にも、私が歩いていくかもしれませんよ。

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