テスト:第八話
8
ハグされたまま、私は一杯目のコーヒーを飲み干した。
「さて、おふざけはこの辺で置いといて、早速議論を始めようか」
「結衣にとってのハグはおふざけなのか」
「藤野君のハグは嫌いじゃないよ。でもね、ハグよりもっと楽しいことがしたいわけ」
「それってセックスの方か」
「そう」
藤野君はニヤッと笑った。どうやら彼もそれを楽しみにしていたらしい。
「恋愛は形に見えないけど、何というかぼんやりしていて解像度は低いよね。だけど、俺は結衣のこと好きだよ。俺のこと否定しないし」
「それだと否定しない人全員恋愛対象になる。例えば、元カノと今カノの違いは?」
「そんなこと比べられないよ。嫌な気持ちにならない?」
「ならないから言って」
「・・・まあ、若干見た感じしかわからないけど、元カノの方が胸もうちょっと大きかったなあ・・・」
いきなり体のことか。男子高校生らしい健全な視点だ。
「胸が大きいことがどうして良いの?」
「柔らかそう」
「揉む前提ならね。でも藤野君は肉体セックス恐怖症でしょ?関係ある?」
「・・・女っぽいほうが、性欲は湧くし。性欲・・・そう、性欲のことしか考えてない」
「それだと恋愛は性欲を解消するための口実みたいになっちゃうね」
「でも・・・実際には俺、元カノよりも結衣の方が好きだし」
「なんで?私のどこに魅力があるの?あ、言っとくけど可愛いと優しいと綺麗と美人はなしよ」
藤野君は真剣な顔を真っ直ぐとこちらに向け、答えた。
「・・・・・・全部だよ」
あまりにも突然、緊迫した雰囲気を醸し出す藤野君を見ていると、おなかをくすぐられた時のように笑いが零れそうになる。真剣に答えている彼のプライドを傷つけまいと、口元を手で隠し笑いを懸命に飲み込み、私は応答する。
「・・・抽象的というか最早恋愛が存在している事を証明する気なんてないって感じね」
「そう・・・・・・・答える気も起らない。それが恋だよ」
藤野君はそう言って頬を赤らめ、瞳孔が開いた目で私をまじまじと見つめていたので、藤野君の足を軽く蹴った。
「痛え。・・・なに?」
「ちょっと無防備過ぎだ。コーヒー飲め」