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報酬レンジは開示すべきか?

「部長って給与ってどのくらいなんだろう?」

誰しもも一度は上司の給与が気になったことがあるはず。

最近では報酬レンジ(給与レンジ)を、社外も含めて公開する企業も増えてきました。

しかし開示に踏み切る際、
「給与を公開すると社内の不満が増えるのでは?」
「でも、逆に隠していると転職希望者を集めにくいかも...」
と、報酬レンジを開示することにはメリットとデメリットがあり、悩ましく思うでしょう。

報酬レンジ公開は、どんな論点に応えるべきなのか、考えてみましょう。



論点① 開示することで、社内の納得感は高まるのか?


「なぜ自分の給与はこの額なのか?」

この疑問は、多くの社員が持っているはずです。

この疑問に対して、給与レンジを開示することで、多くの社員の納得感を高められる側面はあるでしょう。

特に、成果主義やスキルベースの給与体系を採用している企業では、透明性を確保することで「頑張れば報われる」という意識を醸成しやすくなると考えます。

また、ジェンダーや年齢による無意識の報酬格差をなくすこともできるため、公平性を保つ上でもメリットがあると思います。

しかし、報酬レンジを開示する際、注意すべきは、評価制度や等級制度もあわせて見直すことです。

給与レンジを開示するとき、しばしば「自分はなぜレンジの下限にいるのか?」などの不満を抱く社員が出るリスクがあります。

特に、評価制度が明確でない場合、開示がかえって不信感につながることもあり得ます。

また、給与の決まり方が複雑な企業(たとえば、基本給以外にも様々な手当などが報酬制度に組み込まれているなど)では、一律のレンジを示すことが難しく、かえって誤解を招く可能性もあるのです。

つまり、報酬に関わる不満は、実は報酬以外の要素にもあるということです。

そのためも、開示を検討する場合は、
・等級制度が適切なものかを見直す
・昇給・昇格の基準を明確する
・給与決定の評価基準を定める
・社内の説明を徹底し、誤解を防ぐ
などの準備も同時に行うことが不可欠だと考えます。


論点② 開示によって採用力は高まるのか?


報酬レンジの開示が採用にどの程度直接的な影響を与えるかは一概には言えませんが、一定の透明性があることで、求職者が「この会社に応募しても大丈夫か?」と感じる不安を軽減できる側面はあると考えられます。

特に、経験豊富な人材の中には、給与水準が不明瞭な企業よりも、情報が整理されている企業を好む傾向が見られます。

また、近年では給与の透明性を重視する求職者が増え、特に外資系企業やスタートアップでは報酬レンジを開示するケースが増加しています。そのため、一定の条件下では、開示が企業の採用競争力向上につながる可能性があります。

一方で、給与レンジを公開することで、競合他社に自社の報酬水準が把握されるリスクや、優秀な人材の引き抜きが発生しやすくなる懸念も指摘されています。

また、求職者によっては給与レンジの上限に注目し、「なぜ自分はその額ではないのか?」と交渉を求めるケースも想定されます。

こうした点を踏まえると、単に給与レンジを公開するのではなく、「どのように報酬が決定されるのか?」という評価基準やキャリアパスとセットで情報発信を行うことが、より適切な対応と言えるでしょう。


論点③ 開示により、企業の報酬戦略へのメリットと制約は生じるのか?


先述の論点以外だと、給与レンジの開示は、企業の報酬戦略に一定のメリットをもたらすと考えます。

ひとつは、報酬レンジを明確にすることで、人事部や経営層が人件費計画を立てやすくなることです。

昇給や昇格の基準が明確になることで、「このポジションにはこの範囲で予算を確保すればよい」と見通しを立てやすくなり、財務管理の精度が向上します。

また、新規採用の際も、「このポジションにはこの報酬で採用可能か」という判断がしやすくなり、不必要なコストの増加を防ぐ効果も期待できます。

一方で、給与レンジを開示することで、報酬の柔軟性が低下するリスクもあります。

例えば、市場価値が急上昇した人材を獲得するために「例外的に高い給与を提示する」ことが難しくなる可能性があります。

また、業績が悪化した際に 「昇給ペースを抑える」「報酬体系を見直す」 などの調整を行おうとすると、社員から強い反発を受けるリスクも考えられます。

そのためには、企業としては、開示の範囲を慎重に設計し、「どこまでを固定ルールとするか」「どの程度の柔軟性を持たせるか」 を明確にした上で運用することが重要だと考えます。


結局、報酬レンジは開示すべきなのか?


ここまでの論点を踏まえると、報酬レンジの開示は「する・しない」の二択ではなく、企業の状況や業界特性に応じた最適な方法を選ぶことが重要だと言えます。

例えば、グローバル基準を採用し、透明性を重視する企業や、報酬の決まり方が明確で制度として整っている企業は、開示に向いていると考えられます。

一方で、部分的な開示という選択肢もあります。たとえば、新卒採用や特定の職種のみでレンジを公開する方法や、等級制度とセットで説明して納得感を高める方法です。

開示しない場合でも、重要なのは「納得感」です。個別交渉を重視する文化の企業では、給与決定プロセスの透明性を高め、社員が納得できる仕組みを整えることが必要です。

企業ごとに最適な形は異なりますが、共通して重要なのは、社員や求職者が納得できる仕組みを持つことです。

開示する場合でも、しない場合でも、どのように給与が決まるのかを明確にし、評価基準や昇給のプロセスをしっかり伝えることで、社員の安心感やエンゲージメント向上につながります。

「報酬レンジの開示、どうするべきか?」という問いの本質は、単に情報を公開するかどうかではなく、どうすれば納得感のある報酬制度を作れるかという視点で考えることにあるのではないでしょうか。


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