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芥川賞『ゲーテはすべてを言った』まさかの、マカロニほうれん荘

「ゲーテ曰く、ベンツよりホンダ」
あたかも万能の呪文のように、
あらゆる事象を解き明かす鍵となる言葉の数々。

しかし、それは単なる権威の引用ではない。

ゲーテの言葉を起点に、手塚治虫、ゴダール、丸谷才一等々、
巨人たちの思想が煌めき、【裏声で】少し複雑な家族の物語を彩っていく。

AIが模倣できるのは、偉人たちの言葉を並べることだけだろう。

本作は、彼らの言葉を五線譜に音符を配置するように緻密に調律し、
物語の旋律を奏でる。

その緻密な設定と構成が織りなす物語に一気読みさせられた。

物語は家族の日常を描いた穏やかなもののように見える。

しかし、10分ずれている時計・・・
一瞬ドキッとさせられるが、陰湿にはならない。

ドレミと虹色を組み合わせた天地創造のシークエンスには圧倒された。

ゲームや映画、コントといったエンターテインメントの形式ではなく、
硬質な文字で綴られた小説で、
【不思議な家族】【猟奇】【トラウマ】
不使用の糖質オフ、カロリーゼロ、

軽妙な剛腕を味わえること自体が、新鮮な驚きだ。

作者は、正面から堂々と様々な魔法の呪文を唱えるように、
読者を心地よい酩酊へと誘い、

物語中の言葉で言えば、

「Dazed and Confused」や「マカロニほうれん荘」

中島らもの舌先の格闘技の世界に迷い込んだような感覚や、
筒井康隆の「ロートレック荘殺人事件」「文学部唯野教授」
や、
「はたらく細胞」「ミクロの決死圏」
のような、細胞や文字、哲学のインナースペースのエンタメ迷宮アトラクション、

この解けないでほしい、終わらないでほしい、
再びかけてほしいと願うような感覚こそ、
本作の最大の魅力だ。

ゲーテの言葉の出典の謎を軸に展開しながら、
軽妙に批評する設定、緻密な構成、圧倒的な情報量、
おもしろ過ぎる。

ジョイスまで視野に入れた卒論「聖書の世俗的パロディとしてのシェイクスピア全集」をスピンオフで良いので読んでみたい。

映像化するならマインクラフト風の世界観もいいかも。


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