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サンフランシスコにもういない

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#夏の想い出

(6)テキトーに喋る男たち『サンフランシスコにもういない』

(6)テキトーに喋る男たち『サンフランシスコにもういない』

 近所のスーパーにシャンプーを買いに行った。ブロンドの女性店員にシャンプーの場所を訊いたが、そこには大量のボトルがあり、アメリカの製品に精通していない僕にはそのなかから自分に合ったもの選ぶのが難儀だった。
 そこで選択肢が多すぎて決めるのが難しい旨を彼女に伝えた上で、
「Which is the best shampoo for the best guy? (最高の男に合う最高のシャンプーはどれだ

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(3)笑わないミッキーマウス『サンフランシスコにもういない』

(3)笑わないミッキーマウス『サンフランシスコにもういない』

 僕は昔からミッキーマウスに親しんできた。といってもフリークではない。幼気な子供らしく彼のぬいぐるみを抱いて寝たこともなければ、クラスに必ず一人はいる女子のように手本もなく紙にサラサラと顔が描けるほど、彼のデッサンに勤しんだ経験もない。
 しかし彼がオーナーを務める夢の国――実際オーナーかは知らないが、ミーハーにはそう見える――で良い思い出はたくさんあるし、彼の特徴的な笑い方が、全国のちびっこ芸人

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(1)『サンフランシスコにもういない』

(1)『サンフランシスコにもういない』

 世間から一目おかれるいやゆる〝エリート〟たちは、ひとたび旅に出れば、崇高な思想や哲学の一つ二つ誰に言われるともなくこしらえて、いざ帰国するなり、周囲に吹聴しては、いやにもてはやされ、いやに尊敬され、いやに自信と矜持と知性とを発散させる。
 いま見苦しいほど嫌味ったらしい書き方をしたけれど、これは自分には成し得ないことを目の前で成されたときに抱く自然な苛立ちと憧憬の裏返しにすぎない。つまり、
――

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(2)うんこの話をしよう『サンフランシスコにもういない』

(2)うんこの話をしよう『サンフランシスコにもういない』

 語学学校の帰り道。僕はルームメイトの韓国人ヤンとともにサンフランシスコ名物の急な坂道を登っていた。その間、僕たちは他愛もない議論をしていた。ヤンは政治に興味があった。だから日韓関係のことや日本国内の情勢について、あれこれと訊ねてきた。
 僕は政治がわからなかった。だから何か訊かれる度にニュース番組で聞き齧ったようなことをかろうじてぽつぽつと答える程度だった。
「この問題についてどう思う?」
 ヤ

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