偉い人のカバン持ちをして長年の体調不良が治った話
職場の中の人間関係はめんどくさいものだ。「何の不平不満もなく良好!」という人をまずもって聞いたことがない。
その人間関係の中でも、役員など偉い人たちの近くで接していると、寵愛を受けて良い思いをする人もいるけれど、政争の果てにその役員が失脚することもあって、長期的に見れば寵愛によるメリットは続かないことが多い。
ただ、そういう偉い人に取り入ろうとする小狡い考えを抜きにすれば、競争を勝ち抜いてきた人たちのそばにいるメリットはいくつかあったと思う。
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いまでこそフリーランスをしているが、過去に会社組織で、偉い人のカバン持ち(雑用係)をしていた時期がある。なつかしき「至福の雑務」の数々。偉い人が溜めた小銭を500円玉に両替するために常時きれいな500円玉をぼくがストックしておく、みたいなミッションもあった。雑務の極みである。
職場での人間関係のメリットは、異なる生活習慣や行動原理を持つ人と長い時間を共有することだと思う。
偉い人たちのそばにいて、その生活習慣や行動原理を観察していると、十人十色ではありながらいくつか共有する部分があることがわかった。
真に偉い人たちはメンタルが強く、豪胆で度量があり、ささいなことで動じない。反面、繊細さを合わせもっていて、リスクヘッジや危機管理を怠らない。この絶妙なバランスを成り立たせている。
それを可能にしている秘訣は、じつは「姿勢がいい」「足腰が強い」「腹から声が出ている」「だいじな場面で呼吸を整えて乱れない」といったフィジカル面の強さの維持だったように思う。
一方、ぼく自身はとても生命力の弱いタイプで、偉い人たちと真逆だった。幼少期から立ちくらみが多く、めまいを覚えることも多々あったし、平日に人と話しすぎると週末には頭痛に襲われていた。すこし激しい運動をしただけで目の前で銀紙がまたたいた。
きっと、自律神経を整えるのが苦手だったのだと思う。身をちぢめてしずかに生きていきたい、と考えていたせいか、猫背であったり巻き肩であったりと姿勢が悪かったことに加えて、呼吸が浅いのも原因だったんだろう。
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体力が衰えはじめた30代から、ようやく体調管理に気を配りはじめた。生命力あふれる偉い人たちには届かないとしても、標準の生物くらいの壮健さになりたいなぁと考えはじめて、偉い人たちの所作を真似しはじめた。
姿勢をただす。具体的には胸を張って歩く。デスクで背筋を伸ばす。
足腰を鍛える。ランニングまたはジョギングする。移動時はゆっくりと大股で歩く。地に足がついている、という感じ。
「ながら」行動をしない。会議中にスマホを見ない。話を集中して聞く。
メールや書類などを早めに判断して処理する。
身辺を整理する。デスク回りの書類を分類してファイリングする。
仕事上の迷いを減らす(例えばペンは機能ごとに1つしか持たない)
自分の身体を統制すること。集中すること。早く判断すること。整理して迷い減らすこと。
そういうこまかい所作の積み重ねが自律神経の不調の改善につながったようで、以前は忙しくて焦るような場面でも心がザワザワしなくなった。
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偉い人たちの高い要求、タフな人間観、あくなき成長志向は、ぼくのような意識の低い社員にはときに理不尽に感じられてしんどいときもあった。抵抗を覚えるような経営判断もあった。
けれど、人生において出会うはずの無かった人たちの近くにいれて、自分の生活習慣や行動原理を変えられたのは、今ではありがたい恩恵であったように思われる。