海をたゆたふ花
暖かい光に 煌めく生命のすみか
みづから望むこともなく たゞ
古へからの ならはしに從つて
ポリプたちは 數多の花を咲かせる
冷たい風に 搖らめく廣大な水面
みづからのことも 生命の意味も
何ら知ることなく たゞ
蒼古の海を旅する クラゲたち
絶え絶えに 無數の生きものたちと
言葉をかはすも 誰に知られるわけでもなく
波間に 果敢く花を散らすのみ……
しかし――海をたゆたふ花は
生命の種を 證を 海の底に遺こしてゆく
ふたゝび 小さな生命の花を咲かせるために
2023年1月31日作品(銀紗44号掲載)
作品について
この作品は、クラゲ(ヒドロ虫類)の一般的なライフサイクルを表現したものになります。クラゲと言うと、海を漂うクラゲをイメージされる方が大半だと思います。しかし、クラゲには固着するポリプ世代というものも存在し、ポリプからクラゲが遊離(ポリプがクラゲに直接変態するというパターンもあります)・クラゲが有性生殖をするというのが一般的な一生になっています。
ポリプは休眠するなどして長い期間生き続けられる一方、クラゲの方は余り長い期間を生きられないのが普通です(条件を整えて、何年も維持させられる種もいますが)。これを植物に例えれば、ポリプは冬になっても幹だけで生きている植物本体、クラゲは或る時期にだけ咲き役割を終えたら散って行く花にようなものと言えます。まさに、クラゲは花と言ったところです。そんな儚いクラゲを花に例えて、クラゲの一生を詠ったのが本作になります。
私の恩師や、研究協力をさせていただいている水族館の方々にこの詩をお見せしたところ、非常に好評でした。特に、何のクラゲかを指定しないことで、それぞれが想像するクラゲを思い描きながら読めるという点が良かったそうです。皆さんも思い思いのクラゲを想像しながら、読んでみて下さい。
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