老木に咲いた花
自然(じねん)に咲いた残り花、それが侘び茶稲電流でございます
葉桜の季節
桜の樹に青々とした若葉が芽吹き、はらはらと舞う桜の花びらは、季節の移ろいを知らせてくれます。
茶室では炉から風炉へ。
小雨が降るなか降る桜は、風花と見紛う美しさです。
炉も終わりを迎える四月なかば、海老の耳をつけた茶釜が、香川から東京へ長旅を経て、我が庵に到着しました。
早速湯を替えて、初釜(?)の準備にとりかかります。
釜師の方の言葉が心に響きます。
「・・鉄は錆びて地の姿に還るのが本来だが・・正しく使えば末代まで人に尽くしてくれる・・」
錆びは、侘び寂びの「寂び」に通じます。
錆びた茶釜からまろやかな湯が沸くように、侘び寂びは、重ねた深い豊かさを教えてくれます。
即席ではなく、物理の応用から事を早めるのではなく、自然(じねん)に得る豊かさを教えてくれます。
時の経過を省いた利益・効率化を追求する現代にあっても、自然(しぜん)・自然(じねん)に在る本来の尊さは変わらずに在ることを、ともすれば忘れがちな現代に、侘び寂びの観念は教えてくれます。
四月、本寿庵から発信のYouTubeでは、「”侘び茶稲電流“の炉の平点前」をお送りします。
これまでは、縁あって教えていただきました茶道のお点前動画をお送りしてまいりましたが、新たに侘び茶稲電流のお点前としてスタートします。
稲電流前身の祖は、村田珠光さまからの流れを汲む侘び茶を江戸の終わりまでお伝え申しましたが、幕末に途絶えます。
最後の師範は、北へ向かう船に乗る後継へ、一つの棗を渡します。
「たまに袴のうえで習ふとよい」
紙一片残らぬ災いのなか全ては口伝。
侘びの心は、心へと受け継がれ、伝えは虚空に放たれました。
災い転じて福と成す。
時は流れ現代に。
仏さまのお住まい法華経の寺に、侘び茶の心が受け継がれ、庵が生まれました。
新たに、侘び茶の心を軸とした稲電流のお点前をお伝えしてまいります。
幕末に絶えたある侘び茶の流れ
人の記憶から絶たれた切り株に、青々とした芽は息吹き、樹は育ち花を咲かせました。
老木に咲いた花
自然の時に生まれた残り花
それが、侘び茶稲電流の茶の湯でございます。
*写真
抹茶 小倉山(小山園)
菓子 桜餅ういろう(虎屋)