八重光樹

八重光樹が聞き集めた不思議な体験談、怖い体験談を文章化して投稿しています。 *文中の名…

八重光樹

八重光樹が聞き集めた不思議な体験談、怖い体験談を文章化して投稿しています。 *文中の名前はイニシャルまたは仮名にしています。

最近の記事

声のするほう【怪談】

由香さんは沖縄県の高校に通っていた。 季節は夏、放課後に友人の明紀さんと居残り学習をしていた時だ。 教室には二人しかいない。 カリカリカリ…という筆記音と、締め切った窓の外から部活動の音だけが響いている。 勉強を始めてどれくらい経っただろうか。 ペンを持つ手に鈍い疲労感を覚え、集中の糸が切れた由香さんが話しかける。 「何時くらいに帰る?」 「このページやったらキリがいいからここまでかな」 「じゃあ私もそうする」 「フフッ」 ”三人目”の声が聞こえた次の瞬間、由香

    • だれも知らないアパート【怪談】

      ※一部加筆修正をして公開しています。 この街は閑静な住宅街だ。 駅を出て東へ少し進むと交通量の多い大通りに当たる。 会社やサロン、飲食店などが点々と並んでおり、傍らを流れるA川に沿って北へ歩けば川のにおいの混じった金木犀の香りとすれ違う。 季節はまだ秋口。 肌寒さを太陽の暖かさが包んでくれる時分だ。 10分ほど歩くと、いわゆるマダムと呼ばれる人々が住まう住宅街の景色に変わってゆく。 一軒家やマンションの間を伸びる坂道。 その途中にある公園へ散歩に来ている親子の姿が平穏を物

      • たすけてください【怪談】

        7年ほど前のことだろうか。 当時僕は東京の青山で働いていた。 その日、いつものように14時ごろ遅めの休憩に入り、昼食を買うため近くのコンビニへ向かう。 首都高の真下を通る渋谷へ繋がる大きな交差点。 コンビニへ行くためには信号をふたつ渡らなければならない。 ひとつ目の信号を直進し、次の横断歩道を渡るため左を向きふたつ目の信号が変わるのを待っていた。 この辺りは飲食店があまりない高級住宅街だ。 14時ともなると休憩中の会社勤めをしている人の姿も消え、交通量も多くない。 この時も

        • 黒くて甘い【怪談】*閲覧注意

          「死神ってのはね、本当にいるんだよ」 Tさんの祖母は厳格な人であった。 看護師という職業を通して戦争を経験した祖母は、とても真面目で普段は決して当時のことを口にしない。 それが経験者だからこその選択であることは、小学生のTさんもなんとなく理解していた。 そんな祖母が一度だけ、自身の体験した戦時中のことを教えてくれたことがある。 それは“身近な人から戦争を学ぶ”という課題が学校から出た時だった。 Tさんが課題の趣旨を丁寧に説明すると、祖母はその重い口を開いてくれた。 いいか

        声のするほう【怪談】

          はい、抜けた【怪談】

          みつきさん(仮名)は幽霊を信じていない。 そんな彼女が19歳の頃、友人の家へ行った時の話を聞かせてくれた。 通っていた大学の同級生であるAちゃんとは家が近所だ。 週に3~4回は遊んだりお互いの家を行き来する仲で、人懐っこいAちゃんの飼い犬と戯れるのも楽しみの一つだった。 ある時、みつきさんはいつものようにAちゃんのマンションへ遊びに向かった。 この日はあいにくの大雨。 傘を差しても横風に揺れた雨で濡れてしまうような降水量だ。 日も暮れていないのに空はどんよりと薄暗く、灰色

          はい、抜けた【怪談】

          ヘッドレストの隙間【怪談】

          その日、美香さんは仲のいい同性の友人と地方へライブ遠征に出かけていた。 道中は友人の両親が車を出してくれてとても快適な旅であった。 ある一つのことだけを除けば。 これは彼女たちが帰路についているときの話である。 友人の父親が運転し母親が助手席に座っている。 運転席の後ろに友人、助手席の後ろに美香さんという並びで座っていた。 あの曲が良かった、どこそこの演出が良かったなどと盛り上がっていたとき、美香さんは不意に視線を前にやった。 助手席のヘッドレストとシートの隙間、具体的に

          ヘッドレストの隙間【怪談】

          ドンッ【怪談】

          Rさんが大学生のとき、父親と二人でよくツーリングに出かけていた。 ある日も彼は父を誘い出しツーリングに出発した。すでに深夜だ。 バイクに乗ってからは会話もなくただ並んで走る。 親子には同じ景色を見るだけで十分だった。 しばらくバイクを走らせたところで、橋の架かった開けた場所を見つけた二人はそこで一旦休憩を取ることにした。 バイクを停めヘルメットを外すと、夜の冷えた空気が一気に肺へ流れてくる。 Rさんは父と一言二言交わし、一服しようと一人橋の近くに歩いていく。 そこでふとそば

          ドンッ【怪談】