声のするほう【怪談】
由香さんは沖縄県の高校に通っていた。
季節は夏、放課後に友人の明紀さんと居残り学習をしていた時だ。
教室には二人しかいない。
カリカリカリ…という筆記音と、締め切った窓の外から部活動の音だけが響いている。
勉強を始めてどれくらい経っただろうか。
ペンを持つ手に鈍い疲労感を覚え、集中の糸が切れた由香さんが話しかける。
「何時くらいに帰る?」
「このページやったらキリがいいからここまでかな」
「じゃあ私もそうする」
「フフッ」
”三人目”の声が聞こえた次の瞬間、由香さんは声のするほうを見ていた。
そこは天井の角だった。
すぐに違和感を覚え明紀さんを見ると、彼女もまた天井の角を見つめていた。
直後、二人は顔を合わせ無言で帰り支度を済まし教室を出た。
「…気にしないほうがいいよ」
教室を出る時、明紀さんは由香さんの顔も見ずにそう呟いた。
声の正体もその言葉の意図も分からないままだという。
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