1+1=2ではない。いのちの仕組み。
1+1=2だと学校では学ぶ。
1というモノと1というモノを合わせたら2になる。学校で学んだロジックは私達の頭の中に沁みついている。=の左側にある1+1とイコールの右側にある2は重さでイメージすると左側と右側は均一である。このように私達は左右が対象になると思いやすい。長い間そうだと信じていた世界がそうでないと知る時、人は戸惑う。
もし、今1+1=2ではないそんな状況が自分の体内で起こっていたら?
福岡伸一先生の生物と無生物のあいだを読み自分の中にある1+1=2であるという思い込みは必ずしも正しくはないという事が分かった。
本書では生命とは何かという命題に福岡氏が様々な研究者の研究を例に出し迫っていく。表現は色々だが、ルドルフ・シェーンハイマーという研究者は自身の研究を基に生命について以下のように記している。
生物が生きているかぎり、栄養学的要求とは無関係に生態高分子も低分子代謝物質もともに変化して止まない。生命とは代謝の持続的変化であり、この変化こそが生命の真の姿である。
又、福岡氏は以下のようにも記している。
生命とは動的平衡にある流れである。
シェーンハイマーの言うところの代謝は福岡氏の指し示すところの動的平衡にある流れと言える。
ここで流れとは何かという話をしたい。
我々の細胞を構成するタンパク質はアミノ酸という構成単位でできている。食物を摂取する時私達は食物のタンパク質をそのまま体内に取り込んでいると考える傾向がある。1+1は2であるという考えを基調にするとこうなる。しかし実際には食物はアミノ酸の単位にまで一度ばらされ、再合成されて取り込まれる。取り込まれる際、細胞自身も自分のタンパク質を常に捨て去っている。他の食べ物から得るアミノ酸という情報をバラバラにしてから、瞬時に必要な情報を合成し取り込むのである。この複雑な流れ自体が生命そのものであるとシェーンハイマーも福岡氏も語る。
アミノ酸の段階まで分解するのは、文章である情報をアルファベットの単位まで分解するというイメージである。これらは皮膚や髪や爪等の日々変化を実感できる部位だけではなく、身体のあらゆる部位、臓器や組織、歯や骨などの部位でも起こっている。これを驚異的な速さで行うのは、エントロピーの増大を防ぐ為である。エントロピーが増大すると死に近づく。それを回避する為に我々の身体の中ではこのような生命活動を行っている。これが動的平衡という流れの考え方である。
生命を考える時私たちはいつもの観念を捨てなければならない。安易に入力と出力はイコールであると思う時私達は見失う。生命のダイナミズムを無視してはならない。日々繰り広げられているダイナミズムは我々の想像を凌駕している。
今、iPS細胞やゲノム編集等バイオ系界隈が熱い。研究スピードが上がり、経済効果も高い事で注目を浴びる分野である。
しかし、これほどまでに研究をされていても謎の多い分野でもある。例えば細胞というトピックでがん細胞について考えると、がん細胞はある細胞で自信の本分に基づいて分化をした細胞である。しかし何かのきっかけで分化のプログラムの時間軸が後退し、分化と増殖という機能は捨てずに本分とは別の分化を進めてしまう細胞である。現時点でがん細胞を抑制する事にしか人類は成功していない。がん細胞が自身の分化の道に戻る道筋を我々は発見できていない。このような情報を詳しく提供できるのは専門家や研究者であると思う。しかし詳しい研究の最前線はあまり知られる事がない。
同エリアのiPS細胞やゲノム編集についても最前線の専門家を介した話というのは、多く聞かれる事がない。研究者同士や業界内外でしっかりとアンチが異を唱える事は重要であると思う。様々な議論が慎重になされないと、安易に行うゲノム編集で負の展開を招きかねない。
まずは私のような素人のフェーズでは自分でこの業界で何が起こっていて真実は何かを考える必要がある。その為にも様々な研究者の方たちの意見を知りたいと私は密やかに思っている。何故なら我々が目にする情報はメディアを介しており生の現場の声ではないからだ。現場の研究者の声を聞く機会があると今後の展開を考える上で我々エンドにいる者たちの判断材料になるし、業界の議論の活性化にも繋がるだろう。
まずは、私は1+1=2ではない生命のダイナミズムをいつも心に留めて様々な情報に接したいと思う。