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読書記録 小池真理子「神よ憐れみたまえ」

初版 2021年6月 新潮社

人は誰でも心の奥の奥の底のまた底に、
開いてはいけないフタがあるのではないか。
例えば人を殺したいとか、死にたいとか。
男なら、道端でお色気ムンムンの女性を見かけた時、
もしも自分が昆虫だったなら、
ソッコー後ろから抱き着いてしまえるのに・・とか。
そんな衝動にかられたり・・・
しかし自分は昆虫ではない、人間なのだ。
理性をもたなければならない。と自分にブレーキをかける。
ブレーキはかけても・・そんな衝動にかられたこと自体が
自分でもキモイ。
・・・とか。

小池真理子という人は、そんな人の裏暗い
心の底の底にいとも簡単に入り込んできて
こんこんとフタをつついてくる。

あらすじ
10年の歳月をかけて紡がれた別離と再生。

わたしの人生は何度も塗り変えられた。いくつもの死と性とともに──。
昭和38年11月、三井三池炭鉱の爆発と国鉄の事故が同じ日に発生し、「魔の土曜日」と言われた夜、12歳の黒沢百々子は何者かに両親を惨殺された。
母ゆずりの美貌で、音楽家をめざしていたが、事件が行く手に重く立ちはだかる。
黒く歪んだ悪夢、移ろいゆく歳月のなかで運命の歯車が交錯し、動き出す……。
著者畢生の書下ろし長篇小説。(アマゾン商品紹介より)

序盤であっさり犯人の目星はつく。
あとはそれが本当にそうか。
作中で主人公がいつどうやって知るのか。
知った時どういう行動をとるのか。
犯人はどうなるのか。
という興味で引っ張られるのだが
それはことごとくはぐらかされる。
違う方向に話が進む
それがなんとも冗長に感じて途中何度も挫折しかかったけど、
終盤クライマックスではあの冗長さはこのためだったのかと
合点がいく。
ネタバレしてもいけないのであまり内容には触れられないが
これはサスペンスではなく
一人の女性の一生を描く大河ドラマだった。
主人公の黒沢百々子は小学生の頃から美貌と聡明さを兼ね備えている。
小学生にその描写はいささかなまめかしすぎだろ小池さん
とも言いたくなるほどだが・・・
美人が幸せになるとは限らない。美人であるが故に巻き込まれる歪んだ運命
の変転がヒリヒリと描かれる。

しかし百々子は常に凛として孤高の姿勢を崩さない。

その姿に何を思うか・・・。
それが本作の読みどころだろう。

私が思ったのは、幸も不幸も、1寸先にどうなるかは分からない。
あれこれ考えても思い通りにはいかない。なるようにしかならない。
なるようになったその先で、そのことをどう受け止めるかが重要だ。
何がどうなろうと、その時その時の
できる限りを尽くして生きていきたい。

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