「アイ」西加奈子 読書感想
初版 2019年11月 ポプラ文庫
最近書店でよく見かけて、気になっていた作家さん。
はじめて読みました。
記念すべき第1冊目です。
この物語の主人公はワイルド増田アイ。
アイはシリアで生まれた。
本当の両親は知らぬまま、赤ん坊の時、アメリカ人の父と日本人の母のもとに養子としてやってきた。
小学校卒業まではニューヨーク、ブルックリンの高級住宅街で育つ。
両親は慈善活動家で、4歳の頃には世界の不均衡について教えられ、養子であることも教えられた。
アイは表面的にはおとなしく素直ないい子だった。
決して、だだをこねたり、おねだりしたりしない。
しかし、その裏にはいつも「養子」であるという意識があった。
恐らく何らかの過酷な状況にいた自分を、養子縁組団体が、世界の不均衡から選び出し、今の裕福な両親のもとに送り出した
それは感謝すべきことと頭ではわかっていても、心はいつも苦しかった。
「不当に免れた」と思わずにはいられなかった。
中学生からは日本で暮らすことになった。
その年、ワールドトレードセンターに2基の飛行機が激突した。
アイはワールドトレードセンターに行ったことはなかったけどなぜか
「生き残ってしまった」と思った。
ニューヨークの学校の友人たちやその親たちは被害にあったかもしれないのに
自分だけ「そこ」にいなかったことへの罪悪感・・・。
そのころからアイは、毎日ニュースで流れる世界の内紛や災害の犠牲者の数を秘かにノートに書きこむようになる。
そんな女の子が、中学2年の時に出会った親友権田ミナ。
彼女との半生に及ぶ交流・・・、
そしてユウとの結婚を経て・・・
どうなっていくのか・・・というお話です。
世界の不均衡の犠牲者に心を寄せ
その思いを想像し心を痛め苦しむ人。
慈善活動は偽善か?傲慢か?
平和で裕福な家庭にいる自分にそんなことを語る権利はないのか・・
渦中の人しか苦しみを語ってはいけないのか・・・
自分の出生、シリアに対する思い。
血統。ファミリーツリーに対する渇望。
ひじょうに繊細で内向的な女の子の、精神的葛藤の話でした。
アイデンティティーの確立。自分探しの旅。
世の中の矛盾や不均衡を真正面から考え続ける過酷な生き方。
読んでいてもヒリヒリする。
もうそんな事グチグチ考えてもしょうがないよ。
止めちゃいなよ。と声をかけたくなる。
僕ならとっくにそうするだろうけど・・・
それをしないでもがき続ける主人公アイ。
そして西さんの作家的姿勢・・。
ただただすごい。
正直、心から絶賛、共感、感動とはいかなかったけど
本作の主人公流に言えばジャッジしない。
肯定も否定もしない。そのことが大事だと・・。
ただ、世の中にはいろんな人がいると
認める思いやりは、愛(アイ)は待ちたいなぁ
と思ったのでした。