書評「ミルドレッド・ピアース」
装丁がとてもきれいな、幻戯書房 ルリユール叢書 の『ミルドレッド・ピアース 未必の故意』。
比較的現代の感覚から遠い刊行物が多い気がしますが、この作品はかなり読みやすい。それはアメリカの話だからか、1930年くらいとわりと近い年代だからか、注記が少ないからか、訳者がいいのか、原著がいいのか、あるいはその全てなのか。それはわかりません。
ただ読んでて感じることは緩急のスピードがいいということ。事業がトントン拍子に大きくなるところは勢いがあり、廃れた豪邸の暖炉の前で二人が話すシーンではゆっくりと時が進む。その感覚が気持ちいいんだなと思います。
正直登場人物に対しては、なんでそんなことすんねんとか、意地が悪すぎるとか、別に共感はできない部分もある。一方でそれが、「物事は昔もう少しシンプルだった」というときの”昔”に該当するときの話なのかもしれないと思うと納得がいきます。登場人物たちは一つの価値観や信条で世の中を渡り合っていくような。
なんにせよ読みやすく面白い本ではあるので、立身出世する物語が読みたい、ドロドロの愛憎劇が読みたい、そんな人にはお勧めの本となります。