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その㉞『ドラゴンクエスト3 そして伝説へ……』その2
数あるファミコンソフトの中でも知名度や売上本数、面白さでもほとんどトップに近いと思われるのが本作「ドラゴンクエスト3(ドラクエ3)」である。近々新たに様々な機種で、HD-2Dリメイクが発売されることも決定。内容は非常に有名なソフトだが、ここで触れたいのはファミコン版の発売日、当日のもようだ。筆者が中学生のときである。
前作「ドラゴンクエスト2」が大ヒットしたため、今作の発売日にも店には長蛇の列ができた。筆者は当時、関西圏在住。入手の機会を逃すまいと向かったのは、大阪のとある大きなデパートだった。
当日、やはり黒山のような人だかりができている。主婦や高齢者も多かった。自分の子供や孫のため、「ドラクエ3」目当てに集まっていたのだろう。緩やかに行列ができてはいるが、あまりに人数が多くて不安になった。今日ここで入手できるだろうか? 発売時刻の間際になって、店員さんのアナウンスがあった。
「下がってください、10メートルほどお下がりください!」
いま思えば、興奮した客たちがレジに詰め寄ったせいかもしれない。周囲の皆がアナウンスに従うなか、筆者の脳裏にひとつの考えがよぎった。ソフトを確実に入手できる保証はないから、もちろんレジには早く到達したい。とはいえ、先を越して割り込むのは道義に反する。いま周囲は、後ろに下がりはじめている。もし自分の下がり方が周りより遅ければ、相対的に早くレジに近づけるのではないか。
完璧な理論であった。だがその理論を遂行する環境が、あまりにも劣悪であった。ソフトを確実に入手しようと殺気立った複数のおばちゃんたちが、こちらを睨みつけたのである。筆者は郊外の中学生。その気迫には為すすべもなく、一緒に後退することに。「完璧な理論」(「中坊の浅知恵」とも言います)は、脆くも崩れ去ったのである。結局、ソフトは入手できたのだが……。
素晴らしいゲームソフト入手と同時に、社会の厳しさのを肌で感じ取った、ほろ苦い青春の1ページであった。すげえ大げさですが。
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