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相手を知ることから始める!

入所施設で働き始めたころからしばらくの間、そこにいた利用者の多くの行動は、私にとっては意味不明でした。いきなりお尻に浣腸してくる女性のダウン症の利用者。電車を見かけると、1時間以上見続けないといられない、バスに乗ると終点まで絶対に降りない男性の自閉症の利用者。道を歩くと、マンホールをすべて踏まないと歩けない男性の自閉症の利用者。短期利用者で利用するたびに物を壊したりガラスに突入したりして、途中で利用停止となり、そのことを私も含めて悪口にしてブログに投稿する軽度の女性の利用者。通所する際に必ず背中とリュックの間にマヨネーズをはさんでくる男性の自閉症の利用者。その他にも強者揃いでしたから、この手のエピソードは、まだまだたくさんあります。


それらの行動を見るたびにどのように支援していたのか?浣腸してくるダウン症の利用者には、そのたびにちょっと怖い顔して、注意していました。電車・バスが大好きな自閉症の利用者には、できるだけ電車・バスを遠ざけていました。ちなみに彼はその後、外出中に職員の目を盗み、おそらくバスと電車を乗り継ぎ、高崎まで無断外出してしまいました。マンホールをすべて踏む自閉症の利用者には、危ないから、危ないから…と声を掛け、歩道を歩くように促していました。短期入所やマヨネーズの利用者についても同様です。その行動をやめさせることだけ考えて支援していました。


簡単に言ってしまえば、行動だけを見て、自分の都合に合わせながら、自分の価値観や物差しで行動の善悪を判断していました。悪だと判断すれば、それを止めるという支援をしていたわけです。ある意味間違いではない部分もありますが、結局その多くの行動は無くなりませんでした。


行動の基本は、まず経験→思考⇔感情→行動→結果となると自分なりに解釈しています。どういう行動を選択するのかは、その人のそれまでの経験を基にした価値観や思い込みを起点にして、その時の感情に左右されます。前述のどの利用者の行動も、私の価値観や常識と照らし合わせて、おかしい・意味不明と判断せざるを得なかったのです。つまり、障害のある人たちの行動と結果だけを見て判断し、その思考や感情、障害の特性をまったく知ろうとしていなかったわけです。今となっては、支援や人材育成では、アセスメント(相手を知る)がもっとも重要だと認識しています。


さて、こうした事は日常の中でもよく起こっています。友人関係や職場でも、価値観の違いや思いこみで、公然と相手を非難批評してしまい、人間関係がギクシャクしたり、空気が悪くなったりした経験を何度もしてきました。同じような経験をした人もいると思います。どうしても、我々は短絡的に物事を判断しすぎているような気がします。

たった1回の間違った行動で、その人のすべてを否定したり批判したり…その行動や結果の裏に、そう思考せざるを得ない環境上の問題だったり、そう判断せざるを得ない感情の動きなど、なにか原因が隠れているかもしれません。職場で見せる姿は、その人の持っているほんの一部分です。間違いや失敗なども、その人の一部分であって、人格すべてではありません。家庭や地域で何か悩みや心配事を抱えている、情緒面で落ち着かない状況、一時的にこうした状況に陥ること、誰しもそんな状態もあったでしょう。誰しもに起こることだから、そこに思いや考えを巡らせる必要があると思います。


もちろん許されない間違った行動もあります。ただ、せっかく天文学的な奇跡で同じ職場で働いているもの同士、行動や結果を批判批評する前に、その奥にある思いや感情、そこに至る環境要因にまで思いを巡らせることは決して無駄ではないと思います。また、自分の価値観や常識が間違っていて、それに気付くチャンスでもあります。


全員参加を掲げる組織や仲間と自身の成長のためにも、価値観や思い込みからくる非難や批評から始めるのではなく、肯定的好意的態度で、まずは相手を知ること(アセスメント)から始めることは、とても大切ではないでしょうか?

2020.11 しせつちょうだよりより

だれかの気づき・きっかけになりますように!

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