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ふぅ もうじき年が暮れる 私はこれまで幾多の世界を飛んできたが その役目も もうじき終いだ いろんな世界に いろんな奴がいた カメレオンのごとき人生を生きた男や 人間に恋をしたアンドロイド コトバの種を咲かせる女もいたな 桜を咲かせるために奔走するウサギや 主のうっかりミスに翻弄される動物たち 紅葉狩りで無双するネコなんかもいたな どいつもこいつも なんて愉快なんだ あ…… でも そう言えば 龍には一度も出会わなかったな それだけは少しだけ無
私は真面目な人 いつも真面目だねって言われる あと優しい人でもある よく優しいねって褒められるから 生まれてこのかた生きてきて 真面目で優しい人っていうのは おおむね平凡な人であると察している そんな私が知るこの世界は とても真面目で優しい顔をしている もちろん ふざけた 冷たい人もいる 他にも もっと色とりどりで あなたみたいな人もいるよね 私はあなたが羨ましい だってあなたは 私と違う世界の人だから 生まれた季節も 生まれた場所も
すっかり12月になった ある日のこと 「今年が終わるなんて早いなぁ」なんて お決まりのセリフを何人かが言った そしてあたしも言って 笑った 1日はいつだって24時間なのに バイトや勉強はゆっくりと流れて 遊んだり休んだりするときはスキップで 不思議な心のステップに翻弄されてしまう そしてそのうち来年もきっと言うの 「もうバレンタインの季節かぁ」とか 正月はどこ行った? みたいな そう言えば 今年の抱負はなんだっけ? 確か初詣の神社で宣言したけれど…
さぁ皆 集まったかな? 一同が揃うのはノアの箱舟ぶりかの 呼び出した理由は他でもない 我らが楽園の知識の実が盗まれたのじゃ そうじゃ 前回は人の子が犯人じゃった 共犯の蛇にも厳しく𠮟ったのは懐かしいの 今回は違うじゃろ? ワシに誓いなさい! ふむふむ はっきり否定したの よろしい あっ 人の子 ついでに頼みたいのじゃ 「ぼーはんカメラ」とやらを今度おくれ やれやれ 早く取り付けるべきであった こうして皆を疑うのはワシとて悲しい…… ところでリン
最初の瞬間は嬉しかった 桜前線が生まれる前のこと 映画館で あなたの隣の席に座った もっとこの機会が増えればいいと思った 私の心は花が咲き乱れていた 私は 桜のように在りたかった あなたの隣にずっといたかった その願いが叶うように自らを飾りつけた それから月は巡り 季節も廻り あなたは微笑み 落葉は色づき 想いが果実のように実った頃 あなたを何でも知っている人になった 収穫された産物をかじっていると あなたに私の好きな映画を訊かれた 答
吾輩は野良猫である 名前はまだない……が 人間からはしばしばクロと呼ばれている 風流な吾輩は ひとつ 決心をした! 間借りしている小さな寺の境内で 人間のすなる「紅葉狩り」というものを 猫もしてみむとすにゃり……嚙んじゃった この寺にはサクラはないが 大きなモミジの樹は植えてあるのだ よく参拝客が喋っている紅葉狩りとやらを なんだか真似てみたくなったのだ いや……真似なんてものじゃない 吾輩がお手本というものを見せてやる! ずっと思っていた
秋も色づいてきた休日の昼 今日もいそいそと兄貴の家に行く 兄貴は頼れる兄貴! オレの自慢 7年前に結婚して男の子が1人居る 甥っ子は小さい頃のオレに似てるってさ! だから弟分の成長を見守る気分で行くのさ 義姉さんにお菓子を渡して子供部屋に行く いたいた 今日も元気だなぁ! この前まで赤ん坊だったのに もう3歳か 弟分はクレヨンをゴリゴリと擦っている どうやらお絵描きをしているらしい ……なぜほっぺにクレヨンが付いている? 「あっ! アニー!」
あれ? なんだか体がフワフワするぞ この妙な感じ もしかして夢の中かな? 律儀にパジャマ姿のまま 考え込む僕 まぁいいや せっかくだから楽しもう! ここは自由気ままな僕ワールドだから さぁ何をしよう? 何かになろうかな 魚のように海の中を泳ぐのもいいけど 今は鳥のように空を飛んでみようかな トンと柔らかい地面を軽く蹴ってみる 僕の体は ゆっくりと宙に舞い始める 鳥みたいにとは言ったけれど 違うな スーパーマンかピーターパンみたいだ 目に見えな
いぇーい ハッピー I'm Coming! とうとう来日 憧れのジャパン いっぱい エンジョイ 思い出作り ラテンの皆に 自慢するぞ! 初日は初心 下調べに時差慣らし ちょこっとカントリー We are Ready まずはまったり 明日から目玉観光! リッチな銭湯で戦闘モードのメンテナンス イイオ湯ヲ頂キマシタ 温泉最高 御馳走サマデシタ ファミレス・ブラボー そして辿り着く 今宵のホテル ……ん? ホテル? アパートメントか? まぁいいか マ
おっと まだ体の中で気絶しているねぇ ちょいとごめんよ 鎌でへその緒を切って 起きたかい? おっと 暴れないでよ あんたはまだ生まれたての幽霊なんだから そう幽霊 ついさっき死んじまったのさ だから私は来たのさ そう死神なの 怯えなくていいだろ 私は道案内するだけ 天国か地獄か? さぁどっちだろうね どちらでもなく無に帰すときもあるしさ セカンドライフってやつさ 死んでるけど えっどこにも行かない? 止めときなよ 潔く進まないと どこにも行けなく
おや お客さん いらっしゃい おやおや とても困った顔ですな ふむふむ 道に迷ってここに辿り着いたと それなら我らにお任せください! ここはあらゆる才を持つ探偵たちの事務所 あなたの悩みを解決して差し上げましょう どんな悩みでも? その通り! 面倒な魔草刈りからダンジョン調査まで 幅広く 志は高く 夢はでっかく致します ほら 今こちらに1人戻ってきましたね 何の依頼で……依頼者の謝罪の手伝い? ああ 母君が怒るととても怖い人なの…… あっもう
「ねぇ おばあちゃん聞いて この前みんなで塗り絵したんだ そしたらカラスがあったんだけど コウくんが乱暴に墨をぶっかけたの ほら オレって天才だろって笑って もしかしてカラスのことが嫌いなのかな? ぼくはバケツで掛けられた想像をして カラスのことが可哀想だと思ったから 上から修正テープで白くしたんだ そしたらミキちゃんが拍手をして 白いカラスなんて素敵って褒めてくれた コウくんは何すんだよ馬鹿って怒ったけど ミキちゃんはぼくのこと天才って言って
汗ばんだ体に風がヒンヤリ あれ? いつの間にか秋になっている 夏のどこかに何かを忘れてきたみたいだ 私はクルリと後ろを振り向く 過ぎ去りし時間は色褪せていく 灰色の入道雲のように纏まりながら チラリ キラリ 煌めきながら 宝石のような記憶の欠片 ふわり するり 伸ばした手の隙間を踊るようにくぐる 私は入道雲の中へ飛び込んだ どっぷり どろり 思い出すために 二度と離さないために がっちり ぐるり 綿飴が溶けるように体中がべたべたして 身
「あーぁ 今日はガッカリしちゃった クラス替えで同じになった三加匠くん 成績も運動神経も良くて イケメンで 他の男子みたいにバカふざけもしないし 1年のときから実は気になっていて しかもいきなり隣の席になっちゃって とーっても 嬉しかったのに……」 「良かったじゃん! どうして落ち込むの? 話しかけられなかったとか?」 親友に問われて黙り込む 黙秘権行使だ 言えるわけがない 彼の趣味が ──魔法少女アニメでしたなんて!! 彼は鞄にキーホルダーをつけ