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名曲”As Time Goes By”のキーワード"as"について :時が過ぎゆく「まま」?「につれ」?「けれど?」(2/3)


「名曲”As Time Goes By”のキーワード"as"について :時が過ぎゆく「まま」?「につれ」?「けれど?」(3/1)の続き(3/2)です。


 



Kenkyusha’s New English-Japanese Dictionary『研究社新英和大辞典』(第6版 2002 研究社)の接続詞“as”より(例文、和訳、番号記号は原文のまま)


(1)時a.〜している時に 〜すると 〜しながら He came up as I was leaving.ちょうど出かけようとしている時に彼がやってきた。We were smoking as we talked.話をしながらタバコを吸っていた。= Longman (3)while or when~する間~する時

b.〜につれて(according as) He became wiser as he grew older. 彼は歳をとるにつれて彼は賢くなった。= Longman(3)while or when~する間に ~する時

(5) ~するように(in the way that)Do as you are told. 言われるとおりしなさい。Leave it as it is.そのままにしておきなさい。Take things as they are.物事はすべてあるがままに受け入れなさい。= Longman(2)in the particular way or manner mentioned~のように 

Shogakukan Random House English Japanese 『小学館ランダムハウス英和大辞典』 (小学館1973)] の接続詞“as”より(例文、和訳、番号記号は原文のまま)


(3) 状態 〜のとおりで  〜のままに Leave it as it is.そのままにしておきなさい。
= Longman (2)in the particular way or manner mentioned~のよう

(4) 比例 〜につれて 〜にしたがってAs one grows older, one becomesmore silent.人は歳をとるにつれて口数が少なくなるものだ。
=Longman (3)while or when ~する間に ~する時:

(5) 限定 〜するかぎりでは 〜するところではHe meant no harm, as I understand him.私が知るかぎりでは彼には悪意がなかった。
= Longman (2)in the particular way or manner mentioned~のように

(8) 時 〜の時 〜のとたんに 〜と同時に 〜しながらHe came up as I was leaving.話しているところに彼がやってきた。
= Longman (3)while or when~する間に ~する時

(10) (文語)譲歩 〜だけれども:Rich as he is, he is not contended.金持ちではあるが満足していない。
= Longman (5)though(~けれども)

いずれの辞書の定義もLongmanの定義に収まる


このように、これら英和辞典の定義はみなLongmanの定義のいずれかに収まります。『小学館ランダムハウス英和大辞典』は、Longmanの3つの定義がどのようなコンテクストで使われているかを細分化し記述したものです。上述したように、A Comprehensive Grammar of the English Language’ (R. Quirk 他、1985、Longman)には、それ以上に細部に亘りこれらの定義が使用される言語的、非言語的コンテクストの詳細が記述されています。Longman(Dictionary of Contemporary English)は、それらからコア(核)を抽出した定義と言えます。しかしながら、『小学館ランダムハウス英和大辞書』は日本における外国語としての英語(English as a Foreign Language)の学習者用辞典です。学習者の多くは日本語を通して英語を理解するという、いわゆる、訳読型学習方法(grammar translation method)に慣れ親しんできており、それに応える為に日本語で出来るだけ細かく説明しようとしているのでしょう。敢えて言うなら、Longmanの「森に焦点を当てながら木を」に対し、「木に主点を当てながら森を」という感じがします。どちらにも相応の用途目的があり良し悪しをめぐる単純比較は禁物です。

”as" = 「~のまま」は戦後間もない時期の大学受験参考書で頻出した”Leave it as it is.”の影響か?

推察ですが、この曲の日本語タイトルの「時が経つままに」は、『研究社新英和大辞典』の(1)と『小学館ランダムハウス英和大辞典』の(3)に掲げられた例文“Leave it as it is.”(そのままにしておきなさい)が、英語学習参考書や受験問題集でもよく頻出したと覚えておりその影響かもしれません。この映画が日本でリリースされた戦後間もない頃の昭和28年(1958年)出版の江川泰一郎著『英文法解説』は、P.261で「様態」の“as”の例文として“Try and see things as they are.”(物事をありのままに見るようにしなさい) “Don’t trouble to change. Come just as you are.” (わざわざ着替えないでそのままできなさい)などをあげています。1962年大学に入学した私自身も、“as”と言えば、熟語“as soon as”「〜やいなや」の“as”、「様態」の“as”「〜のように」「〜のままに」の例文 “Leave it as it is.”(そのままにおきなさい)を丸暗記しました。その影響に加え、語呂が良いことも重なりなんとなく選ばれたのではないでしょうか。

整理しまとめると、"as" に続く動詞句”go by"が鍵を 

まとめます。“As Time Goes By”の“as”の用法は、Longmanの(3)while or when(~する間/~する時)に該当します。その2つ目の例文“As time passed, things seemed to get worse.”(時が経つにつれ、物事は悪化する。)と合致します。『小学館ランダムハウス英和大辞典』は(4)比例「〜につれ」と(8)時「〜の間に 〜の時」を分けていますが、「〜につれ」は「〜間に」を延長した意味(extended meaning)です。即ち、「時が経つにつれ」は「時が経つ間に」の変異ということです。言語の意味は状況、コンテクストにより一様ではありません。この場合、接続詞“as”が導く従属節、ここでは“as time goes by”の動詞“go by”が鍵を握ります。 

動詞は3つに大別できます。(心理的)状態を表す状態動詞(state verbs: 例 be動詞, have, know, exist)、変化を表す過程動詞(process verbs例:go by, pass, become, growなど)、動作を表す動作動詞(action verbs 例:do, eat, speak, takeなど)に大別できます。状態動詞と過程動詞は無意志動詞で、動作動詞は意志動詞です。“As Time Goes By”中の動詞“go by”は出発点からの変化を指す過程動詞です。もし“He always watches TV as he eats.” のように行動動詞であるなら、「食べる時」となるでしょうが、過程動詞の場合、過程動詞そのものが「~から~へ」の変化を含蓄するので、それに呼応して必然的に「〜につれ」、ここでは「時が経つ(過ぎゆく)につれ」という意味が派生するわけです。『研究社新英和大辞典』が(1)時の項目にb. 〜につれて(according as)  He became wiser as he grew older.(彼は歳をとるにつれ賢くなった)を置いている理由もそこにあります。

同じことが、「〜のままに」についても言えます。Longman(2)in the particular way or manner mentioned~のように の派生です。“Do as I do.”(私がするようにしなさい。) の場合は、“do”が動作動詞です。そして“We’d better leave things as they are until they arrive.”(彼らが到着するまで物事をそのままにしておく方が良い。) の“are” は状態動詞です。さらに詳しく言えば、"be動詞” は通常使われる繋辞(けいじ=copula) 以外に“exist”(存在する“In the beginning was the Word.” = In the beginning the Word existed. 初めに言葉ありき King James版聖書ヨハネ伝1:1)という意味があります。ここの“they are”は“they exist”に近く、従って、“as they are”はin the way/manner they exist (存在する/あるように)、すなわち「存在する/あるがままに」 になるわけです。要するに、in the way/manner「〜のように」の延長としての「〜ままに」は状態動詞を要求するので、過程動詞“go by”を伴う“as time goes by”は「時が過ぎゆくままに」はなり得ません。


“As Time Goes By”の“as”の用法を~につれて(according as)とする場合、従属節(“as time goes by”)に続く主節が何かしらの変化(change)を叙述しなければ論理的整合性が保たれません。“インターネットから拾った以下の例文のように、

As time goes by, things change, people change. Those you knew become strangers, those you did not know becomeyour trusted ones. But as long as your love and care remains, you will be ready for when they return.(Isaac Muinde Mbiti氏:時間が経つにつれて、物事は変わり、人も変わる。知人は見知らぬ他人に、知人ではなかった人が信頼できる人になる。しかし愛と気遣いがあれば、彼らが戻ってきた時に迎える準備ができていよう。筆者訳)

従属節“according as time goes by”「時が経つにつれて」に続く主節は、“things change, people change” (物事は変わり、人々は変わる)のように変わりゆく事象をしなければ論理的整合性が取れません。しかし、この曲の歌詞:

You must remember this 
A kiss is still a kiss
A sigh is just a sigh
The fundamental things apply

では、"as time goes by"に続く主節における“still”と“just”の解釈次第で整合性の有無が変わります。もし、 “still”を “even now”「今なお/依然として」という意味での副詞とし、“just”を”exactly”「まさに]とか「それ以外の何ものでもない」という意味の副詞とすると、基本的な物は全く変わらないことになり、 “as”をaccording as” (〜につれて)の用法とする場合、 “According as time goes by, a kiss is still a kiss, a sigh is just a sigh. The fundamental things apply”(時が経つにつれ、キスはいまだにキス、ため息はまさにため息、その基本は通用する)ということにになり論理的整合性が保たれません。保つには “According as time goes by, a kiss is not a kiss anymore, a sigh is not just a sigh anymore. The fundamental things do not apply anymore.” (時が経つにつれ、キスはいもうキスではなく、ため息はため息ではなく、基本は通用しない)のように、その基本が過去のものになって変わってしまったと言い換える必要があります。それではこの曲の歌詞とは別物になってしまい、却下です。

(3/3)に続く。

For Lifelong English 生涯英語活動のススメ (鈴木佑治Website)

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鈴木佑治
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