小説 ふじはらの物語り Ⅱ 《陸奥》 17 原本
陸奥介、及びその一党が、当地に赴いて一年ほど過ぎた頃、彼らにある喜びが訪れた。
それは、殿と奥方様との間に二人目の男の子が生まれたことであった。
陸奥介に付き従って当地にやって来た家人の内、女は二人いた。
ところが、その一人が、半年も経たぬ頃、風邪をこじらせて、そのまま帰らぬ人となってしまったのである。
皆は、悲しみに暮れた。
せっかく当地まで無事に来れたものを。
その悲しみもさりながら、一家の者を現実的に困惑させたのが、それからの家政に関してである。
況して、今後奥方の出産も予定されていて、女手が新たに必要なのは、火を見るより明らかであった。
そこで、陸奥介は、そのあたり適当な者が居らぬか、あの下役に訊ねてみた。
彼は、すると、一瞬考え込んだかと見ると、何かを閃いたらしかった。けれども、また思いあぐねる様子をしたのち、徐(おもむろ)に陸奥介に対してその応えを返して来た。
「一人、とても適任な者がございます。ございますが、もし、その者をお気に召さなければ、またほかの者をお探し致しますが…。」
陸奥介は、彼のその言いようを訝ったけれども、後日妻女にその者を目通りさせることとし、時間があれば、自分もその場に立ち会うことにした。
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経世済民。😑