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小説 ふじはらの物語り Ⅰ 《侍従と女官》 54 原本

御(おん)洲浜台のお遊びも、一通り終わり、種々(くさぐさ)のお話しも語り明かされて、まずは座を移される運びと相い成った。


水菓子*のお時間である。

*果物のこと。


命婦などが、お上をはじめ、尚侍や二人の内侍の許に、半挿(はんぞう)や角盥(つのだらい)をお持ちして、お手を濯(すす)ぐようお勧めする。


それが終わると、一座の前に、それぞれ、水菓子が、折敷(おしき)といったようなものに載せられて出されるのである。

勿論、お上の場合は、その限りではないが。


例の扉の向こうから、尚侍の女房達が、恭しく、水菓子を載せた折敷などを捧げ持って、お上らの許まで、一列になってやって来た。

可笑しいのは、その時、あの歯の出ている女房が、口を一生懸命閉じて、とり澄ました顔を少し上に上げながら、さも女官然として進行して来たことである。



お上の水菓子は、命婦を介して、その御(おん)許に捧げられた。

尚侍の許には、歯の出ている女房が、水菓子を捧呈した。

その際、彼女が、終りしな、その横で別の女房から給仕されている黒髪の女と目を合わせつつ、お互いににこっとしたのを目にし、家春はほっとした。その様子は、親子同然に思われた。

折角我慢して口を閉じていた努力が、その折りは無に帰してしまったが。

彼女は、また、とり澄ました表情に戻って、ほかの女房達とともに、女官然とその場を立ち去って行った。



お上が、まずは水菓子をご賞味になる。

続いて、尚侍、そして、内侍達が陪膳にあずかる。

また、侍従の二人にも、目立たぬ形で水菓子が供されてある。こちらは、形ばかりにそれに手をお付けするのである。


このようなことは、“梅壺御殿”、つまり、お上と尚侍達との、午後の楽しみとしてよくあるものなのである。

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一(はじめ)
経世済民。😑