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小説 ふじはらの物語り Ⅱ 《陸奥》 33 原本
仮にも宮廷の官員であった、かつ、光輝ある藤原一門の正夫人であった者、そして、その遺児を今のような待遇で扱ってよいものか、陸奥介は現実的問題を思案し始めていた。
彼女達は、実際上納屋暮らしに相当していた。
“それはさすがにまずいのでは”という考えが、陸奥介の心に湧いて来たのであった。
だからと言って、急に手厚くするのも彼には気が引けた。
第一、彼は、従来家人達に対して心のこもった対応を心がけているという自負があり、住まいのこと以外では、誰に対しても最善を実のところ施していた。
よって、彼女達が己が家の家人である限りは、“特に待遇を改善するというのは何を意味すれば良いのか”、とも思えたのである。
取りあえず、“住まいの方は追い追い自然な流れで改善すべきである”、と陸奥介は考えた。
そして、“それでは、彼女達を今のままの地位に置いて置くべきか”、陸奥介は考え込み始めた。
“これについては、己れの一存のみでどうこう出来まい。”
これまで、文室将軍とあの下役の者が彼女達を官舎の下働きの一家に甘んじさせて来たことに、“遠慮”が無いとは到底考えられないのであった。
故に、彼女達の今後の身の振りようにつき、彼らが“我関せず”で収まるべくもないのは、想像に難くなかったのであった。
そして、冷厳な事実として、己れもその“輪”に参画し出したことを、陸奥介は“天運である”と受け留めたのであった。
それにしても、端(はな)から事情を審(つまび)らかにせず、ここまで事を運んだあの下役の者は本当に心憎いと、陸奥介は感じたのであった。
陸奥介は、あの刀自の夫君、そして、その家族、並びに、周囲の者達について、知り得る限りを有り体に妻に伝えたのであった。
その全てでは勿論あり得なかったが、大体のところは、彼女はすでに承知していた。
二人は揃って、改めてこの深い経緯(いきさつ)のようで、極めて“単純な”話しを心で反芻するのであった。
そして、それが極めて単純なだけに、中々それから話しを逸らすのに手間取るばかりの二人ではあったのである。
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