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短編小説 |好きな偉人を殺してしまった3/6

過去と未来の珍道中

朝靄の立ち込める京都の街。佐藤悟と山田桜は、昨夜の興奮を胸に秘めながら、古い蔵を探す旅に出た。二人の足取りは軽く、まるで修学旅行で秘密の探検に出かける中学生のようだった。

「ねえ、佐藤くん」桜が歩きながら言った。「私たち、本当に未来からのメッセージを追いかけてるのかな?」

悟は少し考えてから答えた。「正直、わからないよ。でも、それを確かめるためにここにいるんだ」

その言葉に、桜は満足げに頷いた。二人は狭い路地を曲がり、古い町並みの中を進んでいく。そこかしこに歴史の痕跡が残る京都の街は、まるで過去と現在が交錯する迷宮のようだった。

突然、イーロン・マスクの幽霊が二人の前に現れた。「やあ、若者たち。良い朝だね」

悟と桜は驚いて立ち止まった。マスクは意味ありげな笑みを浮かべながら続けた。「君たちの探索、面白そうだ。でも、未来のテクノロジーがあれば、もっと簡単に解決できるんだがなあ」

「マスクさん」悟が尋ねた。「未来のテクノロジーって、具体的にどんなものですか?」

マスクは肩をすくめた。「そうだなあ...例えば、時空を自在に移動できる装置とか?」

桜が目を輝かせた。「それがあれば、暗号が作られた時代に直接行けるってこと?」

「理論上はね」マスクはニヤリと笑った。「でも、それじゃあ冒険の醍醐味が半減しちゃうだろう?」

そう言うと、マスクの姿はゆっくりと消えていった。二人は顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。

「未来のテクノロジー、か」悟が呟いた。「でも、僕たちにはアナログな方法しかないね」

桜は頷いた。「そうね。でも、それがまた楽しいんじゃない?」

二人は再び歩き始めた。古い建物の間を縫うように進んでいく。そして、ついに目的の蔵らしき建物を見つけた。

「ここかな?」悟が言った。

蔵の扉は古びていたが、しっかりと閉まっていた。二人は周囲を確認し、そっと中に入った。

蔵の中は薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた。しかし、その空間には不思議な緊張感が満ちていた。壁には確かに、彼らが探していた暗号によく似た文字列が刻まれていた。

「見つけた!」桜が小さく歓声を上げた。

二人は夢中で暗号を書き写し始めた。その時、突然、蔵の中に奇妙な光が満ち始めた。

「な、何が起きてるの?」悟が驚いて声を上げた。

光はどんどん強くなり、二人の視界を覆い尽くした。そして次の瞬間、意識が遠のいていくのを感じた。

目を覚ました時、二人の目の前に広がっていたのは、見知らぬ未来の京都だった。

「ここは...」桜が呆然と周りを見回した。

荒廃した街並み、異常気象、そして人々の姿はない。まるで、締め切りを守れなかった学生の未来のようだ。二人は言葉を失った。

「やあ、よく来たね」

振り返ると、そこにはマーク・ザッカーバーグの幽霊が立っていた。

「ザッカーバーグさん!」悟が驚いて声を上げた。「これは一体...」

「これが暗号の真の目的だったんだ」ザッカーバーグが説明を始めた。「未来の人類が、過去の人々に警告を送ったんだよ」

桜が震える声で尋ねた。「警告?何の?」

「このような未来を回避するためさ」ザッカーバーグは悲しげに言った。「テクノロジーの暴走、環境破壊、人間性の喪失...様々な要因が重なって、こんな未来になってしまったんだ」

悟と桜は言葉を失った。彼らの目の前に広がる光景は、あまりにも衝撃的だった。

「でも、まだ希望はある」ザッカーバーグが続けた。「だからこそ、君たちのような過去の人間に警告を送ったんだ。この未来を変えるチャンスがあるんだよ」

二人は顔を見合わせた。彼らの肩にかかる責任の重さを感じながらも、どこか使命感に燃える気持ちも芽生えていた。

「私たちに何ができるんでしょうか?」桜が尋ねた。

ザッカーバーグは微笑んだ。「それを見つけるのが、君たちの役目さ。この未来を回避するためのヒントを集めるんだ」

そう言うと、ザッカーバーグの姿は消えた。

悟と桜は、荒廃した京都を探索し始めた。その姿は、まるで修学旅行で迷子になった学生のようだった。しかし、彼らの目的は単なる観光ではない。人類の未来を救うための手がかりを探しているのだ。

廃墟と化した建物の中を歩きながら、悟は桜に気づかれないように彼女の横顔を見つめた。この奇妙な状況の中で、彼女への想いはますます強くなっていた。しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。人類の運命がかかっているのだから。

「ねえ、佐藤くん」桜が突然立ち止まって言った。「あそこに何か光っているよ」

二人が近づいてみると、そこには未来のテクノロジーらしき装置が置かれていた。それは、人類の歴史を記録し続けていた最後の知性体、未来のAIシステムだった。

「ようこそ、過去からの訪問者たち」AIが機械的な声で話し始めた。

悟と桜は驚きながらも、AIに様々な質問を投げかけた。人類はなぜこのような未来になってしまったのか、どうすればこれを回避できるのか。

AIは淡々と答えた。「人類の歴史を分析した結果、この未来を回避するためには『人間性の回復』と『テクノロジーの適切な利用』が鍵となります」

「具体的には?」悟が尋ねた。

「それを具体化するのが、あなたたちの役目です」AIは答えた。「私にできるのは、ヒントを与えることだけです」

そう言うと、AIは小さな装置を二人に渡した。それは、一見するとただの古いゲーム機のように見えた。

「これが、過去に戻り、人類の運命を変える鍵です」AIが説明した。「使い方は、あなたたち自身で見つけ出してください」

突然、周囲が再び光に包まれ始めた。

「時間切れのようですね」AIが言った。「さようなら、過去からの訪問者たち。人類の未来は、あなたたちの手に委ねられました」

光が強くなり、悟と桜の意識が再び遠のいていく。

目を覚ますと、二人は元の時代の京都、古い蔵の中にいた。手には、未来のAIから受け取った奇妙な装置がしっかりと握られていた。

「佐藤くん...」桜が震える声で言った。「私たち、本当に未来に行ってきたの?」

悟は深呼吸をして答えた。「ああ、間違いない。そして、僕たちにはやるべきことがある」

二人は蔵を出て、朝日に照らされた京都の街を見渡した。その光景は、未来で見た荒廃した街とは全く異なっていた。

「私たち、この景色を守らなきゃいけないんだね」桜が静かに言った。

悟は頷いた。「うん、でも一体どうすれば...」

その時、エーリッヒ・フロムの幽霊が現れた。「若者たちよ、大きなことを成し遂げるには、まず身近なところから始めることが大切だ」

フロムの言葉は、「一日三食きちんと食べなさい」という母親の言葉のように、シンプルで的確だった。

悟と桜は顔を見合わせ、小さく頷いた。彼らの前には、途方もない課題が横たわっている。人類の未来を変えるという重大な使命。しかし、その第一歩は意外にも身近なところにあるのかもしれない。

二人は歩き始めた。未来で見た光景を胸に刻みながら、そして手に握りしめた奇妙な装置の謎を解き明かすべく。京都の街に、新たな冒険の幕が上がろうとしていた。

カラスが「アホー、アホー」と鳴きながら、二人の頭上を飛んでいった。その鳴き声は、まるで「がんばれよ、若者たち」と言っているかのようだった。

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