📕🎥 Ethel & Ernest
★★★★★
去る8月9日、Raymond Briggs 氏が他界した。享年88歳。
去年(2021)のいつ頃だったか、amazon prime でたまたま映画版に巡り会い、それ以来何度も繰り返し鑑賞してきた。原作も入手して間もないタイミングで Briggs 氏の訃報に触れ、しばし頭が真っ白になってしまった。
「手塚治虫先生」とか「藤子不二雄先生」とか「スタローン先生」とか、ファンが
作家を「先生」と呼ぶとき、それは儀礼的なものではなく、純粋に敬愛の念の
表れだ。訃報の衝撃は、Briggs 氏が僕にとって「ブリッグス先生」であったことを気づかせてくれた。
冒頭に並べた3作は言うまでもなく、ブリッグス先生の作品は、どれも愛さずにはいられない。だが、どれかひとつを挙げろと迫られたら、僕は迷わず "Ethel & Ernest" を選ぶ。
原作は、ちょうど100ページ。基本的に1エピソード1〜2ページというペースで進んでいく。エピソードの中には、時間にすればほんの1分にも満たないであろうものもある。そう聞くと、およそ50年をという歳月を描く物語としては、駆け足に過ぎるのではないかと思われるかもしれないが、決してそんなことはない。仕事と暮らし、恋愛や子育て、戦時下の現実、若さと老い、そして死。そういった場面の端々にある人生の小さなディテールが、情景を立体的に浮かび上がらせ、過不足ないばかりか、容赦無く心を掻き乱してくる。
この作品の素晴らしさは、平凡について正直なところだ。平凡な人生の中にある喜びを堂々と慈しむ一方で、煩わしさや忌々しさも隠さない。単なるノスタルジアやセンチメントになることを拒絶し、何かしら教訓めいたものを示すでも共感を誘うでもなく、ありのままを淡々と描くことに潔癖であろうとしている。故に胸を打つ。その感動は、結果に向かって直線的に連なる物語がもたらすそれとは、違う類のものだ。ひとつひとつは小さな点が集まり、大きな面になって迫ってくる感覚と言えば良いだろうか。
ブリッグス先生独特の温かみのある絵柄に油断してたら、ぺしゃんこに押し潰されてしまった。
ありのままを描こうと姿勢は、絵画的な密度の高さにも表れている。それは映画版の方も同様で、視覚的快感をこれでもかとばかりに味合わせてくれる。映画制作の
プロセスについては、日本版オフィシャルサイトのプロダクションノートが詳しい。こちらはこちらで感動的なので、映画好き、アニメ好き、裏話好きの方には、一見の価値大有り。
★★★★★ 出会えたことに心底感謝の生涯ベスト級
★★★★☆ 見逃さなく良かった心に残る逸品
★★★☆☆ 手放しには褒めれないが捨てがたい魅力あり
★★☆☆☆ 読み直したら良いとこも見つかるかもしれない
★☆☆☆☆ なぜ書いた?
☆☆☆☆☆ 後悔しかない
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