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2021年に観て印象深かった映画を振り返る⑧ 五月編 その2
「五月編 その1」の続きとなる本稿で取り上げる二作品は、どちらも諸々の事情で“仕切り直し”を行った結果として産まれた映画である。それでは以下のレビューをどうぞ。
「透明人間」(2019年)
富豪で天才科学者:エイドリアンの束縛から逃げることの出来ないセシリアは、ある真夜中、計画的に彼の豪邸から脱出を図る。失意のエイドリアンは手首を切って自殺をし、莫大な財産の一部を彼女に残した。
しかし、セシリアは彼の死を疑っていた。偶然とは思えない不可解な出来事が重なり、それはやがて、彼女の命の危険を伴う脅威となって迫る。セシリアは「見えない何か」に襲われていることを証明しようとするが、徐々に正気を失っていく。
(Amazonより引用。一部改変。)
本作は“ダークユニバース計画”頓挫後に再始動した怪奇ホラー映画である。ダークユニバース──マーベルヒーロー映画シリーズ“MCU”の如く連作を想定したユニバーサル怪奇映画群については、以下の予告映像とをご覧あれ。
当初の計画ではジョニー・デップ氏が主演する予定だったそうだが、結局のところエリザベス・モス氏が主演(透明人間に追われる女性:セシリア)を務めることになった。結果として、この起用は大当たりだったと思われる。
映画の感想自体は滅茶苦茶怖っ!もう観たくねぇよ!(ホラー映画に対する、俺なりの最上の褒め言葉)と言うだけでも済んでしまうが、映画作品として特筆すべき二点──ビジュアル面・主人公の精神的追い込みついては言及しておきたい。
まず素晴らしかったのは透明人間のビジュアル。“透明人間のビジュアル”とは猛烈な矛盾を抱えた言い方だが、ネタバレを避ける為にはこの程度の表現にとどめておきたい。
透明人間を題材にした本作は見えないものの恐怖を丹念に描いている作品ではあるが、いざ“その存在が確認できた瞬間”もゾッとする程恐ろしい。一見すると某アメコミヒーローのような姿でもあり、しかしよく見ると“監視する怪物”を全身で体現している事が理解できる。この容貌が非常に生々しくておぞましい。これ呼吸するの不可能じゃね…?等とツッコミを入れるのは野暮か。
また、精神的に追い込まれ社会的立場も堕ちていく主人公の描かれ方、エリザベス・モス氏の演技も良かった。透明人間の存在を信じてもらえず人間不信となる主人公への気の毒な仕打ちに“もう勘弁してあげて!”と言いたくなった。ここまで映画の主人公に対して気の毒さを感じたのは、数年前に「愛のむきだし」(2009)を観て以来かもしれない。そんな気の毒な主人公に安息の時は訪れるのか…?それは本作を直接ご覧になって確認していただきたい。
「ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット」(2021年)
ブルース・ウェイン(バットマン)はダイアナ・プリンス(ワンダーウーマン)と手を組み、迫りくる破滅的な脅威から世界を守るために超人たちのチームを作ろうとする。
だが、その困難さはブルースの想像を超えていた。彼が仲間に引き入れようとする一人ひとりが、乗り越えがたい壮絶な過去をもつために、その苦しみからなかなか前に進めないでいたからだ。
しかし、だからこそ彼らは団結することができ、ついに前例のないヒーローたちのチームを結成する。バットマン・ワンダーウーマン・アクアマン・サイボーグ・そしてフラッシュは、ステッペンウルフ・デサード・ダークサイドとその恐るべき陰謀から地球を守れるのか?
(Amazonより引用。一部改変。)
本作は、難産の末に誕生したもう一つの「ジャスティス・リーグ」である。「ジャスティス・リーグ」(2017)で監督を務めるはずだったザック・スナイダー氏が突然の身内の不幸により降板、その後ジョス・ウェドン氏(「トイ・ストーリー」「アベンジャーズ」等)に監督が引き継がれる。その後賛否が別れる作風とウェドン監督のハラスメント疑惑等により、改めてスナイダー監督による追加撮影が行われた──という複雑な経緯をもとに、「スナイダーカット」は誕生した。
まず始めに、俺は本作とウェドン監督版(オリジナル版)との単純比較をするつもりはない。というよりも単純比較は不可能だと思っている。そもそも尺が二倍も違う(オリジナル版は二時間。本作は何と約四時間もある)のだから、オリジナル版で問題視された“キャラクターの描き込みの量”が違うのは当然であるし、そもそも本作は劇場公開版の問題点・批判点が明確化された後で製作されている★のだから。
★12/10追記 追加撮影はほとんど行われておらず、劇場公開版の出来・評判に端を発した内容の変更は無かったようです。ここに文を付け加える形で訂正させていただきます。申し訳ございません。
もし比較するなら、同じだけの尺・追加撮影を加えて再編集した「ジョス・ウェドンカット」とでなければフェアじゃない。ハラスメント問題等により製作される可能性はほぼ無いが、俺はこちらのverも観てみたい。ウェドン監督の本気はあんなものじゃない筈だ。
オリジナル版と本作の大きな違いは人物描写(特にサイボーグ)の変更と増加・ヴィランの立ち位置の変化・コメディ色の大幅撤廃・突っ込み所の改変※1・そして具体的な続編構想の存在※2──こんな具合だろうか。概ね劇場公開版で批判された点の解消と補完に注力していたように感じられ、当然これらの改変点によって作品の質は上がったと思われる。本作が大絶賛されているのも大いに頷ける。またこれは私見だが、クロエ・ジャオ監督が手掛けたマーベル映画「エターナルズ」は、本作から大きな影響を受けているように感じられる場面が多かった。
一方スナイダー監督の持ち味であり、前作「バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生」(2016)でも存分に発揮された“ケレン味のある見易いアクションシーン”がさほど無かったり、無駄に冗長で勿体ぶった場面が増えたのは残念だった。かつて「ジャスティスの誕生」では丹念に描けていた“守るべき世界と人々”描写の欠如等、新たに浮き彫りになった問題点も多い。
という訳で、“「ジャスティス・リーグ」はオリジナル版より本作を見るべき!”とは断言できない。製作経緯にトラブルがあったとしても、オリジナル版は本作と同様の存在価値があるはずだ。存在を抹消されるような事はあってはならないと感じる。
※1 重要アイテム“三つ目の箱”の管理がザルすぎる問題等。
※2 明らかにオリジナル版とは異なる結末・続編を想起させる映像が含まれているが、今のところ「スナイダーカット」の続編を製作する予定はないらしい。スナイダー監督のファンにとっては生殺しの状況が続きそうだ。ジャレッド・レト氏が演じたジョーカーの行く末はいかに…?
●「六月編」に続きます!
画像は全てAmazonより引用しました。