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「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」と“救済” (2022年映画記録 2)


※ネタバレ含みます!
※本文中の人名は敬称略で表記しています。





・歓声に包まれて



 映画館で歓声が起きた。
 “スタッフロール後の拍手”を経験したことはあるが、“上映中の歓声”に遭遇したのは生まれて初めてだった。
 別世界のピーター・パーカー:スパイダーマン──即ちアンドリュー・ガーフィールド、そしてトビー・マグワイアが池袋のスクリーンに姿を表した途端、観客の心は一つになった。





 今にして思えば、このサプライズへの布石は周到に打たれていた。

・ウィレム・デフォーほか、過去作でヴィランを演じた役者陣が出演する事前情報
・MCUの世界観を大幅に拡張しうる設定:マルチバース
・別世界のスパイダーマン達が共演する漫画『スパイダーバース』が映画化された、という前例

 これらの情報をもとに、本作の展開を心の何処かで予想、そして期待していたファンも多いのではないだろうか。一方で膨らむ期待とは裏腹に、“大人の事情”──スパイダーマンを取り巻くソニー・マーベル・ディズニーなどの面倒臭そうな権利関係が、妄想の足を引っ張ってしまう。




 「カメオ出演でいいから、“彼ら”の声だけでも聞けないかな…」
 そんなファンの期待を逆張り的に裏切るのではなく、真っ向勝負で超えてくれた作品を産み出した関係者一同に、俺はただただ感謝をしたい。大仰なキャッチフレーズ「想像しろ。超えてやる。」は、決して誇張ではなかった。



・サプライズの必然性




 過去作キャストの本格参戦は、単なる遺産の消費に終わらない。
 (恐らく)長きにわたり“親愛なる隣人スパイダーマン”を続けてきたトビーピーター、アンドリューピーター※。メイおばさんの死により悲嘆に暮れるトム・ホランドピーターを、彼らは年長者・先輩ヒーロー・そして先代主人公として励ます。
 一方、孤高の戦士として戦ってきた彼らを、アベンジャーズの一員であるトムピーターが指揮を取って導く。そして、トムピーター自身も孤高の戦士への道を歩み出し、物語は幕を閉じる…。
 過去作キャストが登場する必然性を持ち続けたままドラマが展開されていることから、「スパイダーマンを揃い踏みにすれば観客は満足するだろう」といった生温い考えは感じられなかった。

※劇中では「ピーター2」「ピーター3」などと呼ばれていたが、非常にややこしいのでこのように呼称させていただく。



・作品に対する救済




 本作は不本意な事情で打ち切りとなったトビー版・アンドリュー版両シリーズの“作品そのものの救済”が果たされているように思える。
 特にアンドリューピーターの描写にはその色が濃い。トムピーターの代わりにヒロイン:MJを救い感極まった表情を見せるシーンなどは、本作の白眉ではないだろうか。
 過去作を観た人々は、「アメイジング・スパイダーマン2」にて、彼が“彼にとってのMJ”ことグウェンを救えなかった悲劇から解放されたことに心を揺さぶられる。悲劇の幕が完璧に閉じたとまでは言えないが、彼の物語が「アメイジング・スパイダーマン2」の結末から少しでも進んだことは非常に感慨深い。
 過去作を知らない人も、台詞の文脈と演出から「あぁ、過去のトラウマを清算できたってことかな。そのトラウマについては過去作を観ればわかるんだろうな」と容易に推察できるだろう。わざとらしく過去作の映像をフラッシュバックさせたりしないのも好ましい。
 そんな本作は「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」であると同時に、実現しなかった「スパイダーマン4」「アメイジング・スパイダーマン3」でもある…というのは、流石に大袈裟だろうか。



・消費されるヴィランへの救済



 本作では、作劇の都合上“ヒーローが退治する相手”として消費される運命にあった悪役ヴィランの救済も描かれていたのではないだろうか。
(映画化された範囲において)スパイダーマンのヴィランには、“ヒーローとヴィラン”の関係でなければスパイダーマン=ピーターと友好関係を築いていたかもしれない人物が多い。トビーピーターの親友の父親である初代グリーンゴブリン=本作のメインヴィランは、その代表格と言えるだろう。
 彼らが悪役としての人格・能力を失い、元の世界へ送り返された“その後”が描かれることはない。ヒーローとヴィランとしてではなく、一個人の人間同士として親密な関係を築けていることを、強く願うばかりである。



・最後に



 「アベンジャーズ/エンドゲーム」で素晴らしすぎる大団円を迎えてしまった後は少々勢い・練りこみの不足も感じられたMCU作品。しかし本作は今後のMCU作品に改めて期待を抱ける、そんな快作だったのではないだろうか。




 余談だが、世界中の人々からトムピーターの記憶が消える理屈と具体的な影響については未だに納得できていない(高校を除籍になっていることから、恐らく戸籍や写真・動画のデータ等からも存在の痕跡が抹消されている?)。とはいえ、「ドクターストレンジが言うなら納得するしかないよなぁ…」と煙に巻かれておこう。
 また、トム・ハーディ版ヴェノムの登場は想定の範囲内としても、流石にマット・マードック弁護士=“デアデビル”登場まで予想できた方は居なかったのではないだろうか。間違いなく本作で一番有能だったキャラクターは、濡れ衣を着せられ社会的信用が失墜していたピーターを不起訴に持ち込んだ彼だろう。地味に凄いなデアデビル!


・見出し画像は映画公式サイトより引用しました。

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