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小説 星に願いを、JKに翼を 第3章[モノコン2024予選通過作]
あらすじ
星が好きという共通点を持って出会った5人のJK。それぞれが家庭の事情を抱えながら、自由を手にするために手を取り合う。時には傷つけ合いながら、縮こまっていた翼を伸ばす時、自分たちの夢を見つける少女たちの、逆境に負けないエネルギッシュな青春物語。
全9章(30,878文字)
藍沢優紀
長い巻き毛を豊かに下ろして目の前に居る双子のやり取りを微笑ましく眺めているのは、3年の藍沢優紀。双子はデザートの取り合いをしているようだ。2つあるのだから1つずつ食べればいいのに、2人とも食い意地が張っている。
「やっほー!! 転校生を連れてきました!」
大きな声で教室に入ってきたのは2年の玲奈。この集まり1番の食いしん坊だ。
「相変わらずレオは元気だな」
「「レオ先輩こんにちはー!」」
「転校生というのはその子か?」
「うちのクラスに来た、筑比地姫乃さんだよ」
「かわいいー!」
「でもミステリアス!」
「ここに連れてきたということは、例の物を持ってるってことかな?」
「れ、例の物? あ、さっきのストラップ?」
「そうそう! 筑比地さんは牡羊座でした!」
「なるほど。それなら我が星見会への入会を許可しよう」
「え、え……え?」
矢継ぎ早に話されて訳もわからなくなる姫乃。優紀はその様子にきょとんとする。はっと何かに気づいた優紀は厳しい視線を玲奈に向ける。
「まさか、説明もしないで連れてきたのか?」
「えへ、へへへ……」
「まったく。レオはいつもそうだ」
「だって、話したら仲間になってくれないかもしれないじゃないですかぁ」
「強制したり騙したりして入っても楽しくないだろう。ここは星を好きな人が周りを気にせずに共通の話題で楽しむための会なんだから」
「うぅ……ごめんなさい」
「筑比地さん? レオがすまない。改めて紹介するね」
「え、えっと……」
その時、レオと呼ばれる玲奈のお腹がけたたましく鳴った。
「はぁ。まずはお昼にしよう。折角だし、筑比地さんも一緒に食べよ。食べながら説明する」
それぞれのお弁当を広げて、「いただきます」とみんなで言って食べ始める。それぞれのお弁当はどれも正確が出ているようだった。
玲奈のお弁当はお肉と卵焼きがたっぷり入ったタンパク質たっぷり弁当。野菜は申し訳程度のタマネギくらいしか見当たらない。
優紀のお弁当反対に野菜とお肉がバランス良く入っていて、彩りもいい。つい一口ちょうだいと手を伸ばしそうになる。
あとの2人は双子だ。と言っても顔は似ていない。同じお弁当箱には3色そぼろがぴっちりと詰まっている。別のタッパに果物が入っていた。
姫乃のお弁当は飾り切りが施された野菜たちとふっくらとしたハンバーグ。それに3色ゼリーだ。金粉付きの。
一同が姫乃のお弁当に一通り感嘆した後、優紀がそれぞれの紹介を始める。
双子は1年の真壁美代と沙代。二卵性の双子で、魚座。顔は似ていないが性格は双子らしく似ているらしい。髪型もボブでお揃いにしている。「よろしくです」と揃う声。笑うと目元はそっくりだ。
「レオは同じクラスだし大丈夫だな。私は3年の藍沢優紀。私がこの会を作ったから、実質私が会長。でも、ここはあんまり上下関係とか気にしないで、みんな好きな星とか宇宙の話とかを楽しむための場所だ。たまに夜に集まって星見会なんかもしてる。だから筑比地さんも、もし星が好きなら仲間になってくれると嬉しいな」
「あ、有難うございます。あの……皆さんがさっきからそれぞれを呼んでる名前はあだ名ですか?」
「あぁ。この会だけの秘密の呼び名。それぞれの星座の名前から取ってるんだ。雰囲気出るだろ?」
「じゃあ、木崎さんは獅子座だからレオ」
「そう。私は水瓶座だから、アクア。美代と沙代は魚座だから、美代がピース、沙代がシーズ」
「なるほど」
「筑比地さんは牡羊座だから、エアリー、かな」
優紀はふふふと笑う。心からの歓迎の意を込めて。双子や玲奈も賛同した。
「いいね! 筑比地さんにぴったり!」
「エアリー先輩、すごくいいです!」
「レオ先輩と違ってお淑やかな感じ!」
そう言った沙代に玲奈は、「なんだってぇ!?」と襲いかかる。「きゃ~」と棒読みで言う沙代を見るに、これもいつもの光景なのだろう。
姫乃は少し迷っているようだった。それを感じ取った優紀は、口に入れていた唐揚げを飲み込んで、残っているもう1つの唐揚げを差し出した。
「私たちが貴女を歓迎している証拠に、この唐揚げをあげよう」
「あ! アクア先輩の唐揚げ!」
「シーズも欲しいです!」
「ピースも!!」
「ダメだ。これは筑比地さんが貰って然るべきものだからな。レオが無理矢理連れてきて悪かった。その詫びだと思って貰ってくれ。入るかどうかはじっくり考えてくれればいい」
「はぁ……」
「無理矢理じゃないですぅ」
「次からはきちんと説明してから連れてくるように」
「うっ。はぁい……」
優紀は姫乃のお弁当の中に唐揚げを入れる。姫乃は戸惑いながらもそれを受け取ってくれた。
「美味しい……」と言って目を丸くした姫乃を見て、優紀は満足そうに目を細める。優紀の妹たちも飛びついてきてあっという間に無くなってしまう、自慢の唐揚げだ。
お昼休み終了の時間が迫っていたので、全員慌ててお弁当を食べ終え、昼の集まりは終わった。
優紀は新たな仲間になるかもしれないその背中を見送って、少し寂しそうな顔をした。
第4章 真壁美代と吉田沙代 につづく
前話までの一覧はこちら
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