君はコミックソニック現象を体験したことがあるか【#マンガの話がしたい】
皆さんは「コミックソニック現象」というものをご存じでしょうか?
タイアップやコラボではない、全く関係のない「音楽」と「マンガ」に親和性が生まれる、またはそう錯覚する現象を指す造語で、名前の由来はthe pillowsの楽曲『Comic Sonic』から。命名者は私です。
要は、「この曲、あのマンガにピッタリじゃん!」と感じる現象のことです。個人的には主に「歌詞」に結びつきを感じることが多く、逆(マンガを読んで曲を想起すること)はほぼないです。
ちなみに「Comic Sonic」はアニメ『SKET DANCE』のEDとして起用された言わずと知れた名曲ですが、この曲自体で「コミックソニック現象」が起こったことはありません。
ただ単にこの曲が好きなのと「コミック」と「ソニック(音波)」でピッタリだと思ったことが由来です。
もしかしてちゃんとした正式名称がある現象なのかな。あるかも。あったら教えてください。
自分自身がニコ動のMADムービー文化に触れて育ったというバックグラウンドがあるのと、普段からサントラなどを聴き流しながらマンガを読むことが多いからかもしれませんが、この現象が起きた瞬間の快感と言ったらないです。
今回は私が今までに体験したコミックソニックの中から分かりやすいものを3つ紹介させていただこうと思います。
①『Lamp』/SHE’S × 『ダイヤモンドの功罪』/平井大橋
一つ目は大阪出身の4人組ピアノロックバンドSHE’S(シーズ)の新譜『Memories』収録曲『Lamp』と、ヤングジャンプにて連載中の天才野球少年の孤独と苦悩を描いた『ダイヤモンドの功罪』です。
歌い出しの部分、これはもう主人公・綾瀬川のことを歌っているとしか思えないです。「ダイヤモンド」というワードも入っているし。
どこまで行っても自分の才能が原因で人間関係に亀裂が入る。そんな現実を生きながらも輝ける才能が否応なく発揮され続けていくアヤの破滅的な日々が歌われている気がします。
アヤを中心に進む物語ですが、狂っていくのがチームメイトやコーチといった周囲の人間たちなのもこの作品の特徴の一つです。騒ぎ立てるのはいつも外野の凡人たち。
それだけ辛い現実に直面しながらもアヤは「他人とのかかわり」を捨て切れず、むしろ渇望する。純真無垢な彼の人物像を見事に歌った歌詞だと思いました。
どちらも今月出た作品同士(『Memories』が9月18日リリース、『ダイヤモンドの功罪』は単行本の最新7巻が9月19日発売)で、そこも含めて親和性の高さを感じました。
おそらくメディア化は確実の作品なのですが、このままEDに起用されても何ら違和感はないと思っています。
②『GOLD』/PEOPLE1 × 『タケヲちゃん物怪録』/とよ田みのる
二つ目は東京を拠点に活動するスリーピースポップバンドPEOPLE1(ピープルワン)の楽曲『GOLD』と、ゲッサンにて『これ描いて死ね』を連載中のとよ田みのる先生の過去作で、実在する『稲生物怪録』を題材にしたコメディー『タケヲちゃん物怪録』です。
『GOLD』は本来、『王様ランキング』の2期のOPとして起用された楽曲で、PEOPLE1は他にも『チェンソーマン』のEDも手掛けたりと、活躍目覚ましい個人的注目バンドの一つです。
元々のタイアップとしてはボッジとカゲをを中心とした小さき者たちへ向けたような歌ですが、主人公の稲生武夫の超不幸体質やその境遇にも重なる歌詞です。
そんなタケヲが百鬼荘という妖怪アパートに引っ越してくるところから物語は始まりますが、そこで出会う個性豊かな妖怪たちと、彼らを率いる座敷童子・山本六郎座衛門が、彼女の日々を賑やかなものへと変えていきます。
ただ、賑やかにはなるものの、やっぱり「人間」と「妖怪」で、相容れない部分も多々あり、トラブルも多い毎日。そんな「ドンチャン騒ぎ感」もアップテンポな曲調で演出されているようです。
題材や設定からも分かる通り、結構暗い雰囲気もある作品なのですが、そこにとよ田みのる先生の予定調和的なストーリーラインとでも言いますか、ハッピーなエンディングへと繋がっていく流れが加わり実に爽快です。大好きです。
このマイナスな感情がプラスな感情へと変わる際のふり幅みたいなものが曲からも伝わってくるんですよね。「寂しいけど楽しい」「悲しいけど嬉しい」そういう表裏一体の感情が歌われている気がします。
③『ニュー・マイ・ノーマル』/Mrs. GREEN APPLE × 『殺し屋Sのゆらぎ』/舟本絵理歌
最後は、今や国民的人気バンドとな(ってしま)ったMrs. GREEN APPLEの活動休止明け最初のシングル『ニュー・マイ・ノーマル』と、先日素晴らしい最終回を迎えた『双影双書』の舟本絵理歌先生の前作『殺し屋Sのゆらぎ』です。
私のnoteで再三言っている気がするので、「出た!」と思われた方がいたらすみません。そしてありがとう。でも何度でも言いたい。何から何までピッタリだ、と。
元々は5人組だったミセスが、2020年から2022年の約2年の活動休止を経て、「フェーズ2」と称して3人組として再出発した際にリリースされた楽曲が『ニュー・マイ・ノーマル』。
全体的にはタイトル通り「新しい私の”普通”」を歌った曲ですが、これがターゲットであるヤクザの令嬢・綺利に恋をしてしまった殺し屋Sこと正太郎の心の揺らぎと見事に重なります。
Aメロ、Bメロ、サビは正太郎から綺利に向けた気恥ずかしい恋心のような歌詞にも取れます。
殺し屋としての生き方しか知らなかった正太郎が、一目惚れした綺利のためだけに生きていくことを決意しながらも、慣れない毎日に苦労するシーン。
ここの歌詞とかもうドンズバです。「キリが無い迷い達」と「綺利が無い迷い絶ち」。
Cメロに入るあたりで、物語のクライマックスと重なります。惹かれ合う二人のすれ違い、正太郎と組織のすれ違い、綺利と綺利の父親のすれ違い。
Cメロは綺利から正太郎に向けたような歌詞に思えます。「恋を知って」「愛に怒られて」「優しさを食べて」という表現が、それぞれ作中の人や時間とも重なっている気がします。
おっとりとした綺利が見せる年相応の我儘な願いとヤクザの娘らしい箱入り感、大らかな人柄がそのまま反映されているような歌詞です。
一曲の中で「物語の背景」「正太郎→綺利の感情」「綺利→正太郎の感情」「フィナーレ」全てが綺麗に収まっていて、感動すら覚えます。これはもう主題歌と言ってもいい。
以上、3つ紹介させていただきました。
いや~、気持ち良い。気持ち良くないですか?
伏線回収とかよりもよっぽど気持ち良くなってしまうのは私だけでしょうか。
昨今、実在する楽曲が作中に登場するマンガ作品も増えている気がします。『ふつうの軽音部』とかも大好きです。どんどん盛り上がってほしい。
ただ、マンガの中に既存の「音楽」要素が”狙って”投入される気持ち良さも勿論気持ち良いものですが、全然関係ないようなところから繋がる、この「偶発性」こそが、「コミックソニック現象」のキモでもあります。
①でも書いた通り、何故か発売日とかが近かったり、たまたま読んでいる時に聴いていたり、運命的な重なりが多い気がするんですよね。単なる思い込みに過ぎませんが…
皆さんも是非「音楽」と「マンガ」の親和性に注目して、自分だけの「コミックソニック」を体感してみてください。