韓国に住む日本のおばちゃんが読んでみた。 『台湾はおばちゃんで回ってる?!』
人が見知らぬ誰かに対して親近感を抱く瞬間って、相手が自分と似たような経験をしていたり、共通項や共感できることが多かったりした時じゃないかと思うんですが、みなさんはどうでしょうか? 例えば私の場合、ある女性のプロフィールにこんなキーワードが並んでいるのを見て、とても親しみを抱きました。
80年代前半生まれ、編集者、ライター、海外移住、離婚、再婚、国際結婚、ステップファミリー、男の子の母。ここまでは、私が歩んできた道のりと激似です。しかし、この方は他にも様々な経験を積んでおられました。
シングルマザーとして台湾へ2度目の移住、現地企業での就職、台湾人男性と子連れ再婚・2人目出産、個人事業をスタート、数々の書籍を出版…。「激似です」なんて言ってしまったことが恥ずかしくなるくらい、唯一無二のパワフルな人生を歩んでこられたようなのです。
その方とは、台湾在住のノンフィクションライター、近藤弥生子さん。音声配信アプリ「Voicy」で彼女のことを知り、番組を聴き始めたのが今年のことでした。そしてこの夏、ついに近藤さんのエッセイ『台湾はおばちゃんで回ってる?!』を手にとり、彼女の人生悲喜こもごもや、台湾の文化について詳しく知ることになったのです。
私はこれまで一度も台湾に行ったことがないにも関わらず、なぜか「台湾はご飯が美味しくて、人も優しそう」という印象を持っていました。それはおそらく、大学時代にバイト先で出会った台湾人留学生の影響が大きいと思います。
当時大学院生だった彼女は、私が大学中退を決心した20歳の冬、「家においでよ」と言って手料理を振るまってくれました。部屋には、台湾で兵役中だという彼氏の写真が飾られていました。湯気とともに広がるゴマ油の香りと、黄金色の米粒の中で艶めく玉ねぎの透明感。私は後にも先にも、あんなにおいしい肉団子スープとカレーチャーハンに出合ったことがありません。
それ以来、台湾と聞くとパブロフの犬のように、お姉さんの優しさと手料理を思い出し、それがそのまま台湾のイメージになっていった、というわけです。
近藤さんのエッセイにも様々な台湾の方のエピソードが登場しますが、その国の印象とは、どんな人たちに出会い、どんな言葉を交わし、どんなものを一緒に食べ、どんな交流をしてきたのか? その集約なのかもしれません。
さて、このエッセイを読んで一番驚いたのは、台湾と韓国の文化がすごくよく似ている、ということでした。ページをめくりながら「韓国と一緒だわ~!」と何度ひとりごちたことでしょう。どこがどう似ているのか?違うのか?詳しく書こうとしたらあまりにも長くなりそうだったので、目次を参照し、箇条書きでまとめてみたいと思います。まずは「似ている」と思ったことから。
どうでしょうか?あくまでも私の韓国生活経験を元に「似ている!同じだ」と感じたものを挙げてみたんですが、とっても多いですね。次に「韓国とは違うな」と思ったことも挙げてみます。
生理休暇が取りやすい、生理中に家族が優しくしてくれる、産後ケア専用の食宅配サービスがある…なんていうくだりは、読んでいて本当にうらやましく思いました。
また、韓国でも共働き家庭は両家の祖父母や、シッターさん、学習塾に頼っている人たちが多いですが、学習塾が間食や夕食まで提供するというのは聞いたことがないですね。夏休みや冬休み限定で、朝から夕方まで学童のように面倒を見てくれるテコンドー道場がある、という話を聞いたことはありますが。
近藤さんによると、台湾では16以上の原住民族や、外省人(1949年以降に中国大陸から渡ってきた人々)などさまざまなバックグラウンドを抱える人が共に暮らしているからか、「自分と人は違って当たり前」という姿勢で議論されることが多いそうなんですが、韓国はどちらかというと多様さを認めるより、同一化することを好む傾向があるように私は思います。
「ウリナラ(私たちの国)精神」がとても強い国民性ゆえ、韓国語をよく話し、韓国文化に馴染んでいる外国人を見ると、「あなたもすっかり韓国人になったね!」なんて言うことがあります。相手のアイデンティティーを丸ごと尊重するというよりは、相手がウリナラの色に染まっていればいるほど尊重したくなる、という感じでしょうか。
それから、「良しとされるもの」や「裕福さの象徴」がはっきりと決まっている印象があります。借家よりも持ち家、ビラ(低層アパート)よりもアパート(マンションのこと)、低層階より高層階、地方よりソウル、好きな車より地位をアピールできる車、国内旅行より海外旅行…という風に。学生たちを見ていても、例えば靴はナイキ、ジャージはアディダス、冬は真っ黒のロングダウン、制服のスカートは超ミニ、という風にみんな似たり寄ったり。
とにかく、世の中で良しとされている価値観に合わせる傾向があるので、人目や流行りをとても気にして生きているように見えるのです。もちろん、これに全く当てはまらない人たちもいますし、あくまでも、私の立場から見えた韓国の一部分について述べています。
さて、話を戻しまして。エッセイでは中盤から、シングルマザーになった近藤さんが2歳の息子さんを連れて台湾に2度目の移住をし、その後どう生きてきたかについて綴られています。言葉の壁や住居問題、パワハラ、突然の病気などを乗り越えていく姿に、ドキドキ、ハラハラ。まるでドキュメンタリーを見ているような気持ちになりました。
ピンチの時に助けてくれた人々の言葉も印象的です。本当の苦労を知っている人は、「私はこんなに苦労してきた」と言うかわりに、人にそっと寄り添う優しさがあるんですよね。私もこれまで、そういう方たちにたくさん助けられてきました。
シングルマザーを哀れむのではなく「すごいね!」と肯定的に称えてくれる人たち。子どもは宝だと、一緒に大切にしてくれる社会。台湾のことを知れば知るほど、近藤さんがなぜシングルマザー時代に台湾移住を決めたのか、その理由がよくわかります。
私はこの本に出会い、「息子が小さいうちに一緒に台湾に行ってみたい。いつかあの留学生のお姉さんとも再会できたらなあ」 と思うようになりました。そして、近藤さんのエッセイのように、個人的体験をベースにしながらも韓国の一面がよく伝わる、そんな本をいつか書いてみたいと、改めて思いました。おばちゃんの夢はふくらみます。
書けば叶う、念ずれば叶う。人に話せばきっと何かが動き出す?! まずは韓国発、台湾行きの飛行機を調べてみましょうか。台湾のガイド本も買ってみたりして…。久々にタピオカミルクティーも飲みに行こうと思います。おいしいんですよね、ゴンチャ(Gong cha)。
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vol.16 『韓国の図書館に買ってもらった日本語エッセイと、子育てのお話』
《番組内容》
「日本語の本ってどうやって入手してるの?」という質問にお答えするとともに、台湾在住ノンフィクションライター、近藤弥生子さんのエッセイ『台湾はおばちゃんで回ってる?!』を読んで感じたことや、韓国での子育てについてお話ししています。/2023.08.31収録
▼近藤弥生子さんのnote