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#小説 記事まとめ

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2019年7月の記事一覧

【試し読み】転生勇者が実体験をもとに異世界小説を書いてみた

数々のヒット作を生み出してきた乙一先生に、「恋愛」をテーマにした短編小説を書いていただきました。あがってきた原稿はまさかの……『異世界転生ファンタジー』でした……!! 作者プロフィール第6回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞を受賞した『夏と花火と私の死体』でデビュー。 『GOTH リストカット事件』(角川書店)で、第3回本格ミステリ大賞を受賞。JUMP j BOOKSからは他に『ジョジョの奇妙な冒険』の第四部ノベライズ『The Book jojo’s bizarre ad

フィンランドの国民叙事詩”カレワラ”にみるサウナの記述

2019年3月にタンペレでSaunakonkeliからサウナセレモニーを受けた折に何度か耳にした名前、ヴァイナモイネン。「ヴァイナモイネン」とはフィンランドの国民叙事詩「カレワラ」に登場する賢人です。歌や詩、魔法に長けた人物として描かれ、フィンランドの民族楽器であるカンテレを作中で創り出しています。 https://note.mu/johiroshi/n/n7dd93fa45094 「カレワラでは、ヴァイナモイネンを中心にサウナについて何度も記述されている」そう聞いた僕は

短編小説その1「人魚姫の泡」

短編集その一 人魚の泡 人魚の泡は無数に浮かび上がる貴重な宝飾品である。日差しに輝きながら昇って行く、どことてあてなどなくとも昇り続けるけれど、人魚姫が泡となって解体したのではない。そのそこの島に人魚姫はまだ横たわっている、王子様の頭を膝の上に載せて、歌を歌いながら優しく頬を撫でて通過する船を眺めている。泡を生み出すのは人魚姫ではない、優しく撫でる王子様の頬が溶けて人魚のような淡い泡が立ち上っている。優しさが仇となるのか心を込めて頬を擦るたびに、少しずつ肌の表から肉が失わ

【短編小説】山の上のアイス屋さん

「おーい、ぼく。アイス買ってきてくれよ。」 ブロック積みにトタンを渡しただけの古びたバスの待合所から男の声が聞こえた。 「ぼくのことですか。」 ぼくは、道にろう石で絵を描くのをやめて、振り返った。 「君しかいないよ。」 「なんでですか。」 「なんでって。こどもは大人の言うことを聞くもんだよ。おじさん暑くて動けないから、山の上のアイス屋さんに行って、アイスを2本買ってきてくれ。たのむよ。」 「山の上ですか。」 「そう、ここに100円あるから、2本買ってきてくれ。

1万8千字無料公開!!『刀使ノ巫女 琉球剣風録』試し読み

アニメ『刀使ノ巫女』のノベライズが7月19日に発売となります。 こちらに先駆けて、冒頭18000字を試し読みを公開いたします。 アニメ本編の1年前の物語をお楽しみください。 あらすじ2017年8月某日。平城学館中等部三年・朝比奈北斗(あさひなほくと)と鎌府女学院中等部一年・伊南栖羽(いなみすう)は那覇空港に降り立った。 刀剣類管理局が米軍と共同開発していた『S装備[ストームアーマー]』の運用試験に、テスト装着者として参加するためだった。 同日。もう一人の刀使が沖縄に到着した

池袋びっくりガード1

 むかし、椎名林檎さんの「罪と罰」という曲が好きだった。冒頭、「頬を刺す朝の山手通り」という歌詞があって、埼玉生まれの私は、それはいったいどんな通りなのだろう、と気になっていた。  後年、西池袋で、実際に目にしたが、ただの広々とした、大きな通りだった。  調べてみると、椎名林檎さんが「罪と罰」の歌詞を書いたときは、実際の山手通りを知らなかった、と語っている。椎名さん自身も山手通り幻想に基づいて歌詞を書いていたわけだ。  私は、いま、池袋の端に住んでいる。  その山の手通りを

¥400

営業マンとドーベルマン

 二十年前。小学生の頃、捨てられていた犬を殺してしまったことがある。  ダンボール箱に入れられて野ざらしにされていた子犬に「ご飯持ってきてあげるから待っててね」と言い、そのまま忘れてしまった。  次の日の下校途中に思い出し、慌てて昨日と同じ空き地の隅へ行くと、忘れられた子犬はダンボールの中で冷たくなっていた。  俺は泣いた。子犬の死を悲しみ、涙を流す権利なんてあるはずなかったのに。あの時「待っててね」なんて言わなければ良かった。  あの子犬が俺の言葉を理解し、俺を信じてずっと

梅雨とタバコとUSB

徹夜明けの気だるさだけが身体に残っている。七月上旬の暗い朝、梅雨は未だ明けず、もはや聴き飽きた雨音が窓の外から聴こえている。こんな日に外に出なければいけない用事を作ってしまった過去の自分を恨みつつ、玄関の扉を開けた。 「じゃあ、今までありがとう」 三年間付き合った恋人との関係が終わってから数週間が経とうとしていた。まだチャットアプリ上での会話の削除は出来ておらず、積み重ねてきた長い時間をあっけなく終わらせた通話時間14分42秒のログが、今も寂しく残っている。もう新しい恋人は出

小説メイキング

初めましての方もそうでない方もこんにちは、栗野と申します。 先日マシュマロで文章の書き方を尋ねてくださった方に個人で実践してた文章力の練り上げ方をプライベッターで公開したのですが、 今回、物は試しに小説を書いている時の自分の脳みそを分析してみようと思い立ち、メイキングと銘打ってまとめてみました。 ごく稀に「どうやって書いてるんですか?」と聞かれてもが、「こういう感じのを書きたい!と思って思いつくままに…」としか答えて来ず。その「思いつくままに」のほぼ無意識の所で、自分は何を

【小説】螺鈿の髪留め

内海肇(ウツミ ハジメ)は蒸し暑い梅雨(ばいう)の中を、二本の傘を携えて歩いていた。一本は彼自身の傘で、今差している。もう一本は濡れてしまわないように、持ち手を握る拳を胸に当てるようにして庇っていた。さらには、細長いビニール袋をかけていた。それは、彼が勤める会社から発行されたポスターカレンダーを包んでいたビニール袋で、クローゼットの肥やしにしていたのを昨夜に思い出して、しめたとばかりに傘の防水にリサイクルしたのである。カレンダーは今年のものか去年のものか、はたまた一昨年のもの