優まさる
優まさるの自分で選んだベスト5です。
「おーい、ぼく。アイス買ってきてくれよ。」 ブロック積みにトタンを渡しただけの古びたバスの待合所から男の声が聞こえた。 「ぼくのことですか。」 ぼくは、道にろう石で絵を描くのをやめて、振り返った。 「君しかいないよ。」 「なんでですか。」 「なんでって。こどもは大人の言うことを聞くもんだよ。おじさん暑くて動けないから、山の上のアイス屋さんに行って、アイスを2本買ってきてくれ。たのむよ。」 「山の上ですか。」 「そう、ここに100円あるから、2本買ってきてくれ。
梶井基次郎の『檸檬』で描かれている世界は、メタバースすなわち仮想現実の世界ではないかと思う。 『えたいの知れない不吉な塊』に押しつぶされて陰鬱な日々を送る主人公は、次第に現実逃避的になり、『以前私を喜ばせたどんな美しい音楽も、どんな美しい詩の一節も辛抱がならなく』なってしまう。そんな主人公は、『ふと、そこが京都ではなくて京都から何百里も離れた仙台とか長崎とか――そのような市へ今自分が来ているのだ――という錯覚を起こそうと努める』 梶井が生存していた当時は、錯覚を起こすし
妹を中絶された蓮は、大学生になり、妹を主人公にした小説を書こうとするが、うまく書けない。ある日、公園で子猫を見つけるが、妹のことを思い出してしまい、逃げてしまう。 後悔していると、その子猫を抱えた女子大生アイドルの美月が現れた。 美月は、男の子が苦手だ。だが、現実には、かわいく思われないとアイドルサークルでやっていけないことを知り悩んでいた。 蓮は、美月から子猫を預かり、美月は連の小説を手にして別れ、三か月後再会すると、蓮は、子猫が必死に生きようとするのを見て、妹の呪
「僕が妹を殺したんだ」 大学生の蓮は、公園の池に架かる小さな橋の上に佇んでいた。 蓮が三歳くらいの頃だった。母の膝に抱かれて、その顔を見上げていると、母は、優しく頭を撫でながら、 「蓮は、もうすぐお兄ちゃんになるの」 と独り言のように言った。 蓮が不思議そうに母を見上げると、彼女は、蓮の手を取って、お腹に押し当て、 「赤ちゃんがいるの、女の子なのよ」 と優しく教えてくれた。 蓮は、その瞬間、なぜか悪いことをしたように思って、母の手をはね除け、彼女に背を向けて、う
新年あけましておめでとうございます。 今年もよろしくお願いします。 今年は、小説をたくさん書いてみたいと思います。 読んでくださると、飛び上がって喜ぶと思います。 ぴょん、ぴょん。 今年一年いい年でありますように。
メリークリスマス、そして、7,313回のスキありがとうございました。 もっともよく読まれた記事は、この記事、 『フードコートのクリームぜんざい』だったそうです。 途中お休みをいただいていた私が一年間続けられたのは、みなさまの応援のおかげだと感謝しております。 ちなみに、この一年間に私の記事が読まれた回数は、8.1万回、スキされた数は7,313回だったそうです。本当にありがとうございました。 この記事が本年最終の投稿になる予定です。 みなさま、今年一年大変お世話
三点リーダーって、 御存じですか? ”······”ってやつです。 三点リーダーは、ふつう二つ続けて使います。 こんなふうに、 ”······” 会話文の最後では、 三点リーダーの後に句読点を打ちません。 これはダメです。 ✕ 「○○○○······。」 どうやって“······” を入力するかといいますと、 ”・”を三回連続して打って変換します。 こ んなふうに、” •"を三回入力して、”・・・”となった状態で変換すると、 ”······” となりま
小説の題材を考えています。 そこで、少しお知恵を分けてください。 設定としては、次のとおりです。 そこで、女は、鏡に向かって何と言うでしょうか? 思いついたことを、コメントしていただければ、うれしいです。 コメントしていただいたアイデアは、私の小説に採用させていただくかもしれません。ただ、報酬は一円も出ませんし、将来、その小説で芥川賞、直木賞その他賞金が源泉徴収されない賞を取ったとしても、コメントしたことは忘れてください。 ところで、私がとても好きな韓
恋愛小説が書きたかったのです。 なのに、ある作家さんから、「あなたの書くものは欲望小説だ」といわれました。そう、私の書いていたのは、男からの一方通行の愛だったのです。この歳にもなって、そんなことにも気づけなかったなんてダメなジジイですね。 でも、書きたいものは、書きたいんです。私の欲望がたっぷりつまった小説を。ジジイの恋愛小説。いや、「純愛小説」が書きたい。 また、ある人からは、年寄りが若い時の恋愛を思い出して書いても、ちっとも面白くないといわれました。そのとおり。だ
青くて四角いくすり全文18,923字です。分割版を修正して掲載しています。 青くて四角いくすりを買った。誰にも、見られてはいけない、知られてはいけない。 8階建ての雑居ビルに入るクリニックで、小さな紙袋を受け取ると、すかさずスーツのポケットにしまい込み、エレベーターに飛び乗った。 ポケットの上からそっと触れると、紙袋のゴワゴワした感触の中に、ごつっとした塊を感じる。中指でぐっと押すと、返事をするかのように、ポンと押し返された。 地上に着き、扉が開く。 乗り込も
夏菜子と別れてから地下鉄の駅に向かうまでが、いつもやたらと寂しい。 寂しさを紛らわすために、人の流れから外れて、コンビニの前で立ち止まると、何か用事でもあるかように、スマホを開いた。定例のメールが二、三通届いてるだけだ。会社に必要とされていないことを改めて思い知らされる。 ふと、あの掲示板のことを思い出した。 他のお客さんのことは知らなくていいと夏菜子に注意されたのだが、かまわず開けてみる。 「夏菜子にマジ惚れしたジジイがいて、何にもしないのに、長いこと入られて疲れ
とてもいい夜だった。夏菜子にも会えたし、久しぶりの居酒屋だった。 ほろ酔い気分で店を出て、JRの駅に着いた。ホームで電車を待ってるが、なかなか来ないので、手持ち無沙汰で仕方がない。 夏菜子は他のお客さんの日記は読むなと言ってたけれど、少しくらいは構わないだろう。 夏菜子の日記を開けてみた。 「Tさん、今日は、ありがとう。いっぱいのプレゼントに、いっしょに飲もうとしてくれてたのかな、高級なワインまで用意してくれて。でも、何回リピ(リピート、繰り返し客になること)しても
ほんとうにハンバーグを作ってくるか試してみよう。 そんな気分にさせられて、また、夏菜子に会いに行った。 夏菜子は開口一番、 「ごめん、ハンバーグ無理だった。これで許して」 と、小さな花柄の紙袋を、私の目の前に差し出した。 中を覗いてみると、小さなカップケーキが5つ、アルミ箔に包まれて、こちらに顔を向けている。 「食べてみて」 夏菜子は、私がどんな反応をするか興味深げに見つめている。 アルミ箔を少しめくって、一口かじってみると、ほのかにミルクの風味を感じたが、少し
さっき、くすりを飲んでからこのかたずっと、私は一人、とある地下街をさまよっている。だいたい半時間くらい経ったろうか。この地下街はアリの巣のようになっていて、一度入ると東西南北の方向がつかみづらい。 JRや私鉄、地下鉄の駅を結ぶ巨大迷路のようだ。いつもは面倒な地下街だが、こういう時には都合がいい。JRから私鉄の駅へ、私鉄の駅から地下鉄へと人の流れに沿って歩いていると、誰にも怪しまれなくて済むからだ。 頬が少しほてり始めてきた。左頬に触れてみると、いつもより温かい。気を紛
私と目が合うと、夏菜子は起き上がり、事務的な口調で、 「先にシャワーを浴びてきてください。その間に準備しときますから」 といって、服を脱ぎ始めた。 オナクラは、いわゆる〇番行為がない風俗店である。オナクラの中でも、キスやオーラルなどの粘膜接触がある比較的ヘルスに近いお店と、そういった行為のないソフトなお店があるが、このお店は、ソフトな部類に属している。青いくすりが必要な私には、ちょうどいい感じだ。 一通りのサービスを終えると、夏菜子が、 「ここまでが、このお店の通
夏菜子と初めて出会ったのは、今日みたいなカッと晴れた日だった。今から思い返すとまだ2ヵ月くらいしか経ってない。 その日、夏菜子は、リクスー姿(リクルート・スーツ)で私の前に現れた。 「なに? その格好は」 あまりの不自然さに度肝を抜かれた私は、初対面の彼女に横柄な口をきいてしまった。 だって、そうなのだ。彼女は、オナクラ嬢(オナニークラブの略、いわゆる風俗店)、客に指名されて、待ち合わせたホテルの前にやってきたのだった。 「ごめんなさい、理由は後で説