アフロディーテ(愛と美の女神の話)
「清く、正しく、美しく」は日本の宝塚歌劇団のモットーであるそうだが、人間の美意識にまつわるお話。じぶんは若い頃、小説本が好きで、自衛隊へ決起を呼びかけに乗り込んで行って、割腹自殺を遂げた三島由紀夫(ボディービルにも通って自分の肉体美も鍛えていた)、老いをさらすことを厭ってガス自殺をしたノーベル文学賞作家の川端康成、芥川賞の芥川龍之介(美意識ゆえに精神の病になって自ら服毒自殺をした)なども美意識に生きて、美意識に死んだ人だと思っている。
プラトニックラブはギリシアの哲学者プラトンのイデアのことだ。イデアとは、存在の「真実の姿」を示す言葉のことで、魂を宿す真実在のことであるそうだ。一輪の薔薇の花の美しさは、やがて枯れて朽ちる物質と見るうちは、その美は不完全なものです。紙に精密な四角形を鉛筆で描いたとしても、それは紙が朽ちればまた不完全なものとなります。
だから、プラトニックラブのプラトンのイデアとは、完全な魂(美)に対する、限りない憧憬と情熱のことを指しているとも言えます。限りない憧れと情熱とは、エロスのことでもあります。完全美を追究する行為をエロティックといいます。プラトニックラブは究極の自己愛なのかもしれません。
ギリシア神話のアフロディーテは、死んだ父親の遺骸の泡から生まれたと言われます。ローマの言葉ではアフロディーテはヴィーナスとなり、金星の女神とされます。芸術において、美の女神に愛されるということは、その美意識を突き詰めると、だから死に至るとじぶんは思います。
日光東照宮の美しい陽明門の柱に、魔除けの逆さ柱というのがあります。12本ある白塗りの柱には唐草模様のような彫刻が施されているのですが、そのうちの一本だけが、彫刻の模様を逆にして建てられています。建物の完全美が却って、魔が差すことを呼ぶとして(完全は壊れるものでもある)、わざとそのようにしつらえてあるのだそうです。
手塚治虫の漫画「火の鳥・鳳凰篇」で、己の仏師(彫刻家)の腕を競った二人の主人公のうちの一人が、最後に両方の腕を失ってしまい、後の人間の愛知(philosopy)を導く猿田彦となっていく物語をじぶんは読んだ時、美意識に生きることの本当の意味を知った思いがしました。
だから、限りない完全美への追求は、ただの憧れのままでいて、よいのです。