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【33巻】『進撃の巨人』で描かれた多種多様な「自由」を紐解く⑩
ついに…たどり着いたぞ この景色に
前回の最後を読んでおくとエレンの自由意志の話が理解しやすいかと。
調査兵団がマーレに上陸した初日、エレンはキヨミの用意した館を飛び出して市場を歩きながら自問自答していました。
未来の記憶によれば自分はこれからここにいる人たちを皆殺しにする、それほどの選択をしなければパラディ島が生き残る道はないとして、本当にそれでいいのかと。
とくに、亡き母親カルラはどう思うだろうと考えました。なんども。
でも…そんな結末 納得できない
エルディア人は罪人で生きる価値がない、だから滅びるしかないといった思想をエレンは受け入れられませんでした。オレたちは生まれたときから自由なのだから、それを奪われるのは許せないのだと。
エレンは昼間に出会った異国の少年ラムジーと出会います。
ラムジーはスリの常習犯で地元の商売人から殴られているのを目撃します。エレンはこの少年を未来の記憶で見ており、おそらく助けるだろうと予知します。
しかしエレンはこれから殺戮を尽くす自分が正義を気取っていいわけがないと立ち去ろうとします。でも結局エレンはラムジーを助けます。なぜならエレンがそういう人間だから。これは必然による結果なのです。
こうしてエレンは必然による未来は変わることはないと悟ります。こんな自分はライナーと同じ「半端なクソ野郎」どころか「それ以下」だと。
そして言葉の通じないはずのラムジーに突然泣いて謝ったのです。
いや、むしろ言葉が通じないからこそ本音を吐き出してしまったのでしょう。自分が自由を求めたせいでこれからあなたたちを殺すことになると。自分はそういう人間なのだと。
島を… エルディアを救うため…
それだけじゃ… ない…
壁の外で人類が生きていると知って…
オレは ガッカリした
全て消し去ってしまいたかった…
ごめん… ごめん…
エレンは幼少期から異常なほど「自由」に執着していました。それを奪う存在がどれほど強くても関係ない。許してはならない。だから戦うことを諦めてはならない。殺人を犯してでも。それほどエレンの自由観と行動力は常軌を逸していました。
だからエレンが地鳴らしを選択することは必然だったのです。
自由意志による必然の結果として世界を滅ぼすことになる常軌を逸した人間のなんたる悲哀…このあたりの考察は作者である諫山創先生のブログが参考になるかと思います。必読!
そして泣いているところをミカサに見つかって「オレはお前のなんだ」に繋がるわけですね。こんなどうしようもない人間のことをなんでそんなに気にかけてくれるんだと。限界すぎるよこの人…。
そして地鳴らしが発動し世界は地獄と化しました。この世でもっとも「自由」だと思うものを手に入れたエレンの精神は、限界をとっくに超えてしまったのか幼児化した姿となります。雲の下の出来事など何も知らない無知で自由な子供に。
そしてその景色を「道」を通してアルミンに見せようとします。幼き日に一緒に壁の外を探検しようと誓ったあの日の約束を果たすかのように。
しかしアルミンはエレンとどんな会話をしたのか、どんな景色を見たのか思い出せませんでした。
アルミンもまた「エレンと一緒に未知の世界を旅するって約束」を忘れられずにいました。壁の外の現実を知った後でも。
ただエレンは壁外世界を知って「ガッカリした」のに対し、アルミンは外の世界に希望があることを信じていました。「僕らが夢見た世界とは違った」としても、その先にある「僕らの知らない壁の向こう側があるはず」だと。
初期から一貫してアルミンの本質は「夢を見る勇者」なのです。
一方のアニは僅かに抱いていた希望を打ち砕かれていました。アニは父の元へ帰るためにエレンの地鳴らしを止める決意をしますが、もうレベリオを救う時間は残されておらず一行はそれを諦めることになったからです。
アニは父親を救えないのならこの戦いを降りると宣言します。エレンとも、対立する可能性があるミカサとも殺し合いたくないと本音をこぼしてしまいます。アニは本来とても優しい人なのです。
そしてミカサに問いました。エレンを殺せるほどの覚悟があるのか?と。ミカサは答えることができませんでした。
ミカサはルイーゼから取り返したマフラーを身につけていませんでした。ミカサはエレンへの想いの象徴であるマフラーをどうすべきか決めることができていないということです。
ルイーゼによるとエレンはマフラーを捨ててほしいと言っています。そしてエレンはミカサを言葉で突き放しました。あとはミカサがどうしたいか次第です。
飛行艇が離陸準備に入る中、ハンジは今までより良い世界のために散っていった仲間たちのことを思い浮かべていました。仲間たちが自分を見ているとかつてのエルヴィンのように語ります。それがハンジを突き動かしていました。
そんな中生き延びていたフロックが飛行艇に穴をあけ一行を止めようとします。エレン=俺達の悪魔だけがパラディ島の唯一の希望だと死の間際まで主張するフロックをハンジは否定しませんでした。でもハンジは「あきらめられない」のです。
地鳴らしが始まるまでのハンジは、満身創痍のリヴァイを抱えてイェーガー派から逃げ回る生活に疲れ果てていました。そして罪の奴隷である自分にも哀れな役を演じる「順番」が来たのだと悟ったのです。
そんな中エレンの宣言を聞いたハンジは決心します。調査兵団が命を捧げて戦ってきたのはより良い世界のため。ハンジはその調査兵団団長として、エレンの虐殺を肯定することはできないのです。これが今自分がなすべきことなのだとハンジは分かっていました。自分が哀れな役者で終わっては死んだ仲間に示しがつかないと。
地鳴らしが迫るなか、ハンジはアルミンを次の調査兵団団長に任命します。ハンジはエルヴィンとは違い、なぜ次の団長にアルミンを指名したのか説明をしました。団長に求められる資質は「理解することをあきらめない姿勢にある」と。
そして時間を稼ぐため一人地鳴らし巨人を迎え撃つ役割を買って出ます。「けじめをつける」と。
でもこれは建前でしょう。どんな人でも大切な人たちとの別れの瞬間はかっこつけたいものなのです。アイドルがグループを卒業するときにやりたいことが見つかりましたって建前を言うのと一緒です。ハンジはリヴァイにだけはそれを打ち明けました。
おそらくですがリヴァイは、自分の勝手でハンジに調査兵団団長の役割を押し付け苦しめるような結果になったことが心残りだったのだと思います。そんなハンジが今なすべきことを見定め自分の「自由」を証明するために最期の戦いに挑もうとしている。あのときのエルヴィンのように。
だからリヴァイはハンジの背中を押すだけでした。
リヴァイは最強ゆえに誰よりも多く仲間の死を経験しました。だからこそ仲間には誰も死んでほしくないのです。「心臓を捧げよ」という言葉の魔力や二面性を分かっていたリヴァイは積極的にその言葉を使おうとはしなかったのだと思います。
リヴァイがハンジに託したのは「どれだけ世界が残酷でもかっこつけてこい、自由であれ」という願いだったのでしょう。そして「だからお前は俺がかっこつけるところを見ててくれ。あとは任せろ」という気持ちもあったのかな〜なんて妄想するオタクです。はい。
自分を縛り付けていたものを全て引き受けて解放されたハンジは、ただの巨人好きなハンジさんになることができました。かけがえのないものに気づいたハンジは生者に意味を託して飛び立つのでした。
飛び立ったハンジの背中には「自由の翼」がはためいていました。不条理に抗い続け、なりたい自分をハンジは掴み自由になったのです。
(原作だと雷槍がクロスしていますが、アニメだとクロスさせずに自由の翼を強調するように変更されてましたね。素晴らしいな)
この一連の流れで、一部の人はハンジは責任を放棄してアルミンに団長を押し付けたように見えた人もいるかもしれません。ほかにも綺麗事は暴力の前では無意味と捉えることもできなくはないです。そういう見方もできますが、このハンジの選択が意味あるものにできるかは残された生者たちだけなのです。
そしてハンジは散っていった仲間たちと再会します。『進撃の巨人』では初めて?の演出で物議を醸しましたが、わたしは「道」の世界で彼らは再会できたのだろうと考えています。このあたりの話はSF考察でしたい!時間がない!
この飛行艇を飛ばすために一体何人が犠牲になったのか…幾多の通過儀礼を乗り越えたコニーとジャンは罪悪感に苛まれていました。
このとき二人はライナーたちの立場をようやく理解できたのです。彼らはついに対等な関係になりました。今や罪人となった彼らは、犠牲になったものたちに意味を与えるため自分たちの罪や責任を引き受ける覚悟が整ったのです。
エレンを止めるという目的が一致し団結した彼らでしたが、本当の意味で互いを理解するためにはそれ相応の「壁」がありました。どれだけそれが困難であっても互いを理解しようとする精神を捨ててはいけないのです。
心の整理がついたことでライナーはエレンに言われた言葉「やっぱりオレはお前と同じだ」の意味を理解できました。エレンは自分の自由や存在意義を証明するために自分で背中を押して地鳴らしを実行したのだと。
そしてエレンが自分と同じだとしたら、エレンも今の自分と同じ状態だろうとライナーは察します。自分で背中を押したその先にどんな結果が待っていたとして自分が罪から解放されることはない。許されるわけがない。自分で自分を解放できないのなら誰かに終わりにしてほしいのではないかとライナーは予想しました。ライナーは常に自分を解放してくれる意味のある死を求めていましたからね。
その瞬間一行はエレンによって「道」の世界に呼び出されます。各々が「自分たちのために虐殺なんてしなくていい」とエレンを説得しますが、ミカサは罪を一緒に背負うから「帰ってきて」と伝えます。
エレンがライナーたちに連れ去られたときの話です。ミカサから見ればエレンはいつも自分たちを置いて遠くへ行ってしまう存在でした。アルミンは「きっとそういう星の下に生まれついたんだよ」と。ハンネスはそんな二人に「あのワルガキの起こす面倒を世話するのは昔っからお前らの役目だろ?」と励ましました(11巻より)。
エレンが調査兵団から離反して以降、ミカサは遠くへ行かないで自分たちのところに帰ってきてほしいと願っていました。今まで温もりをくれた存在が、自分を根底から支えてくれた存在が突然いなくなったのだから当然かもしれませんが。
それに対するエレンの返答は「互いに曲げられぬ信念がある限り オレたちは衝突する」「オレを止めたいのなら オレの息の根を止めてみろ」でした。
ミカサもアルミンも、エレンとの向き合い方を決めなければならなくなったのでした。
一方そのころ、一行たちと別れ船でヒィズルへ向かうアニとキヨミは過去の後悔を語っていました。
キヨミはジークとエレンを結びつけた罪が自分にはあると語ります。一族の利益を優先したことでエルディア人の生きる道を全て模索したとは言えないと後悔を語りました。そして「ただ損も得もなく他者と尊ぶ気持ち」の大切さに今まで気づけなかったのだと。
アニはそれを聞いて自分にもそんな気持ちを向けてくれた人たちがいたことに気づきました。戦士候補生たち、104期訓練兵たち、そしてアルミン…。このときアニは自分が最期まで仲間と共に戦うのを諦めたことを後悔していると気づいたはずです。本当になりたい自分はこれではなかった。「でも、もう遅い…」
そんな中ファルコが突然「僕、空飛べるかも…」と言い出したのです。
そういえば巨人化って強い目的意識に応じて必要な肉体が形成されるっていう設定ありましたよねぇ…
じゃあ、やることは一つしかないですよね!
舞台はついに最終決戦の地スラトア要塞に移ります。
司令官のミュラー長官は迫る「進撃の巨人」を前に自分たちの愚かさを嘆きました。こうなった責任はすべて我々大人たちにある、憎しみ合う時代や私達の怪物と別れなければならないと宣言しました。
それに心が打たれたのがライナーの母カリナでした。カリナはライナーを復讐の道具としてしか見ていなかったことを自覚します。子供を親の思想で染め上げる罪深さにようやくカリナは気づきました。
しかし時すでに遅し。反撃も虚しく希望は潰えたかと思われたそのとき…
なんとか最終回放送までに間に合った〜〜〜〜
「不条理に抗い続ける姿勢=なりたい自分を自ら選ぶ=自由=人間讃歌」と定義しスタートしたこの振り返りも残すは最終34巻のみです。
次回はアニメ放送終了と同時(5日AM1:30)に公開できるよう頑張ります。(まずは木曜日の進捗報告をなんとかしないと…)