元早稲田生がエーリッヒ・フロム著『愛するということ』を要約してみた④~愛の習練について~
『愛するということ』の要約第4回。今回はいよいよ、愛の習練について
解説していく。第1回から第3回にかけて、私たちは愛の理論について学んできた。
第1回では、「愛は技術である」というこの本の大前提を理解し、現代に生きる私たちが愛について持っている誤った認識を正した。
第2回では、人が愛を求める理由が「孤独感」にあることを暴き、愛こそが孤独を解消する唯一の手段であることを理解した。
第3回では、成熟した愛と未成熟な愛の違いを理解し、成熟した愛に必要な4つの要素を確認した。
そして第4回となる今回は、いよいよ愛の修練について、つまり「どうすれば人を愛することが出来る様になるか」という、私たちにとっての最大の関心事について解説していく。今回はまず、愛の技術に限らず全ての技術の習得に必要な要素について解説する。そして第5回では、愛の技術の習得において特別な重要性を持つ特質について解説する。第4回、第5回は今までの集大成となる回なので、是非最後まで読んでいただき、愛する技術を身につけていただきたい。
愛の習練の前提
まず愛の習練について触れる前に、大前提として胸に刻んでいただきたいことがある。それは、「こうすればあなたも今日から人を愛することが出来る様になります!」といった、処方箋的な答えをもらえるという考えを捨てるtということだ。
愛する事はあくまで個人的な経験であるため、体験する以外に経験する方法はない。この本に書いてあるのはあくまでも「愛の技術に至るアプローチ方法」であり、そこに至るには自分の足で進んでいく必要がある。
明快な答えを求めてこのnoteを読んでいる人は失望しているかもしれないが、まずはこの大前提をしっかりと胸に刻んでここから先を読み進めて欲しい。次の章から、愛の技術に限らず、全ての技術の習得に必要な3つの要素について解説していく。
技術習得に必要な要素 ①規律
「いきなり堅苦しい言葉が出てきたなあ~」と思われる方も多いかもしれない。しかし、愛の技術に限らず、どんな技術を身につける上でも規律は必要な要素だ。
たとえば、プロ野球選手になろうと決めた小学生がいるとする。しかし彼は規律をもって練習に取り組まず、気分が乗ったときしか真面目に練習しなかった。そんな彼は果たしてプロ野球選手になれるだろうか。答えはNOだ。
人が何かの技術を身につけると決めたとき、必ず規律が必要とされる。
愛の技術の場合も同様だ。
多くの人は規律と聞くと、ある種の反発心をおぼえるだろう。それは例えば、毎日八時間強制されている労働のせいかもしれないし、決まった時間に行かされる習い事のせいかもしれない。
しかし、本来の規律とは、そういった外部から押しつけられるものではない。
本来の規律とは、自分の意思の表現であり、ある特定の行動に少しずつ慣れていき、やがてはそれをやらないと物足りなく感じられるようになることだ。
東洋では昔から、「人間にとって肉体的にも精神的にも良いことは、最初は多少の抵抗を克服しなければならないが、最終的には快いものでなければならない」と考えられていた。
まずは、「決まった時間に必ず起きる」、「朝起きたら必ずこれをする」と言った決め事を自分で作り、それを気分に関係なく継続してみると良いだろう。
技術習得に必要な要素 ②集中
次に必要な要素は集中だ。「現代において、集中を身につけるのは規律を身につけるより遙かに難しい」とフロムは言う。私もその意見に全く同意だ。
集中の習得において最も重要なステップは、「一人でなにもせずじっとしていられること」だ。なぜなら、一人でいられることは人を愛せるようになるための必須条件であるからだ。
成熟した愛の形では、お互いがお互いの形を保ったまま溶け合うことが出来る。逆に言えば、己の形を保てない人間は、成熟した愛を体感することは出来ない。
もし、「一人でいるのは寂しい」だったり、「自分一人では何も出来ない」といった理由で人にしがみつくのであるならば、その相手は命の恩人にはなりうるかもしれないが、その二人の関係は愛の関係ではなく、依存関係である。
逆説的ではあるが、一人でいられる能力こそ、愛する能力の前提条件なのだ。
いざ「なにもせずひとりでじっとする」をやると、それがどれだけ難しいことか分かるだろう。時間が経つにつれてそわそわと落ち着かなくなり、かなりの不安をおぼえさえする。
また、ひとりでいると様々な雑念が頭に浮かんでくる。明日の予定について考えたり、仕事の問題について考えてしまったり。頭の中を空っぽにするどころか、頭をいっぱいにするようなことを片っ端から考える。
集中を身につけるための訓練として、本書の中で挙げられている方法が2つある。
1つ目の方法は、スクリーン式瞑想法だ。これは頭を空っぽにする過程で
スクリーンをイメージすることから、私が勝手に名付けた物だ。
やり方は以下の通りである。
①リラックスして椅子に座り、目を閉じて目の前に白いスクリーンを思い
浮かべる
②時々思い浮かぶ想念や映像を追い払い、自然に呼吸する
(このとき呼吸について考えるでもなく、無理に整えるでもなく、ただ
自然に呼吸する。)
③呼吸を感じ取れるようになった後は、更に「私」を感じ取るようにする。
私の力の中心であり、私の世界の創造者である私自身を感じ取る。
④上記を毎朝毎晩20分ずつ行う。
やり方自体はかなりシンプルだが、やってみると意外と難しい。特に③の「私自身を感じ取れるようにする」は、かなり抽象的であるためやり方に
自信が持てず、上手く続けられなかった。
私と同じような事を感じる方は、少なくは無いと思う。そこで、私は2つ目の訓練方法をおすすめする。
2つ目の方法は、何をするときも精神を集中させるである。
これは本当にいつも意識する必要がある。例えば人と喋っているときや、本を読んでいるとき。景色を見ているときや、音楽を聴くとき。いついかなる時も自分の精神を集中させるのだ。
そのとき自分がやっていることのみが重要であり、それに全身で没頭するという意識を持つことが重要だ。
これはやってみると意外と多くの発見がある。
人の話を聞くとき、真剣に集中して聞いてみる。すると、今まで聞き流していた内容でも、興味深く思えることがあったりする。
景色を見るときも、集中して見てみることで、見慣れた風景の中にも目新しい物が見つかったりする。
この、「自分が今やっていることに集中する」というのは、愛の技術を身につける事にも繋がるが、日々を新鮮に、楽しく生きていくことにも大きく
寄与してくれると私は考えている。
一人でじっとしてみること、自分がやっていることに集中することの2点を、まずはやってみていただきたい。
技術習得に必要な要素 ③忍耐
何かの技術を身につけようとしたことがある人なら分かると思うが、忍耐も技術の習得に必要不可欠な要素である。しかし現代社会では、規律、集中と同様に、忍耐も身につけることは難しい。
なぜならば、現代社会全体が忍耐とは真逆の方向、つまり速さを重視する
世界に向かっているからだ。全ての機械は速さを求めて設計されている。
自動車や飛行機はどれだけ素早く私たちを目的地に連れて行ってくれるかが、価値そのものだ。もちろん、機械が効率的に動いてくれたり、飛行機が私たちをより早く目的地に連れて行ってくれるようになることは、喜ばしいことだ。
しかし問題は、機械と同様に人間の価値も「どれだけ素早く仕事が出来るか」ということで決められるようになっていることだ。
とにかくスピーディに仕事をこなさないと、何か時間を無駄にしている気がすることはないだろうか。何かに追われるように働き、ヘトヘトになって家に帰る。折角仕事を早く終わらせても、何をすれば良い分からず無意味に時間を潰す。
現代人の多くは上記のような状況に陥っている。このスピード至上主義から脱する事が、忍耐力を身につけるための第一歩である。
まとめ
今回は愛の技術に限らず、全ての技術を身につける上で重要な3つの要素、①規律、②集中、③忍耐について解説した。これらの要素を身につけることが、愛の技術を身につけるための第一歩である。もちろんこれらの要素を習得する事は簡単では無い。私もいまだに絶賛練習中である。だが、続けていけば必ず変化は起きるものだ。気分が乗ったときしかやらないのではなく、規律をもってこれらの要素をまずは身につけよう。
次回は、愛の技術に特徴的な要素について解説していく。いよいよ解説も残りわずかとなった。是非最後までお付き合いしていただけるとこの上ない喜びである。
もし今回のnoteを読んでみて、「もっと内容を深く知りたい!」と思われた方は、是非実際に手に取って読んでみていただきたい。