20,000年のねむる愛、鼓動
ある日 太古の地層から
一体のロボットが発見された
解析の結果 なんと
二万年前のものだという
ロボットはずーーっとねむっていた
世界が大きな炎に包まれて
旧文明が滅んでから
以来 ずーっと眠っていた
なんのために つくられたのか
誰もわからなかった
何をどうやっても目をさまさないから
ほおっておかれた
ロボットは
いつしか あるこどもの手に渡り
ぬいぐるみと同じように愛された
ぬいぐるみと違うのは
あたたかく 規則的な鼓動があること
その子が 試験管を出てから
一回も触れたことのない あたたかさだったから
こどもはロボットが大好きだった
眠るときはいつも一緒だった
昔あるところに 老夫婦がいた
夫は力学研究の権威だった
しかし 年をとってからというもの
役に立たないものばかり開発していたので
とうとうやきがまわったと
みんなが思っていた
夫婦は子供が好きだったけれど
二人の子供は 一人も
生きて生まれて来ることはなかった
喪失を受け入れ 彼らは二人
つましく暮らし
年をとっていった
世界が終わってしまう日 夫は言った
私たちの記憶が全て入ったメモリーを
搭載したロボットができたよ
そうさ 夢を見ているんだ
ずっと 夢を見ているんだよ
私たちの幸せな日々の
なんの役にも立たないけれど
ついに永久機関が完成したよ
僕は 君を 愛している
3年前に認知症を発症し
夫は妄想や出鱈目を
頻繁に口にするようになっていたが
妻はその日 夫を信じた
そして ふたりは昔のように
小さなベランダでレコードをかけて
手を取り合って 踊った
ドーナツ盤の A面が終ると
世界は一瞬で消し飛んだ
ロボットは 爆風に晒され
灼熱で焼かれもしたが
なお 無傷で残った
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