雑記 成年年齢引下げと相続・生前手続きの懸念
成年年齢引下げの内容を含む改正民法が今年の4月1日に施行される。これにより、日本の成人年齢が18歳に引き下げられる。よって現時点で未成年者とされている18歳と19歳の人は、約1週間後には、一律に成年者として扱われることになる。
これは単純に民法上の条文の文言が、20歳から18歳に書き換えられるだけの話ではない。ここで一個一個挙げることはないが、例えば婚姻擬制という概念がなくなる等、法概念そのものへの影響もみられる。また少年法など、民法に連動して様々な法律の改正も行われる。
改正法の施行により、国民に法律を学習させようとする動きがさらに活発になってくるだろう。特に、新法制化で成人年齢となる18歳や、その前後の年齢の人たちはその対象として見られやすい。
その動きの一つとして、例えば学校現場への消費者教育の推進がある。以下のページにもあるとおり、消費者教育導入の動きは、今回の法改正を見据え以前から進められていた。
https://www.mext.go.jp/content/20210215_mxt_sigakugy_1420538_00003_9.pdf (消費者教育の推進についてー文部科学省)
上のページで書かれているとおり、その推進の目的は、若者の消費者被害の防止である。未成年者から成年者になることにより、法律上単独での判断能力や財産管理能力等が認められる。これにより、原則的に親権者による同意や代理なく、自分一人で有効な法律行為ができるようになる。その一方で、自分で契約行為ができるがゆえに起こり得る詐欺被害や自己資産の浪費等の消費者トラブルに見舞われぬよう、法律の中でも特に、契約法に関する知識や理解を深めていくことが一つのねらいである、らしい。
ここでは、小学校の段階から売買契約の基礎を学ぶことが学習指導要領で規定される等、より早いうちからの法律学習がすすめられている。
日司連として以下の提言を出すなど、司法書士業界でもこの消費者教育を積極視する動きがみられる。
(成年年齢引下げ 教職員の方にお伝えしたいことー日本司法書士連合会)
学校教育の限られた単元内で、契約のしくみを学ばせることの有効性についてここで論じることはしない。ただ、特に推進されているのは、法律の中でも売買契約や賃貸借契約等の「契約法」の領域であり、またより早期の学習の必要性が説かれている点に注目したい。
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一方で、これまで多くの実務に携わってきたこともあり、個人的には契約法以外の領域、主に家族法への影響にも目を向けざるを得ない。特に、相続や生前の手続きへの影響を見過ごすことはできない。(※もちろん、相続や生前の手続きの過程では、契約法の知識が必要になることも多分にある)
例えば、相続手続の途中にある遺産分割協議の場面である。原則的に、相続人が複数いる場合は、この協議によって財産の分配方法を決める必要がある。このとき、協議の参加者である相続人のうちに、未成年者がいるかどうかによって手続の仕方が異なる。
まず、相続人の中に未成年者がいる場合、遺産分割協議をする上でその者の代理人を立てる必要がある。親権者が未成年者の代理人として協議を行うケースもある。ただし、その親権者自身も相続人である場合は代理人になることはできない。その場合は、家庭裁判所により選任された特別代理人が、未成年者の代わりに他の相続人たちと協議を行う。
例えば、夫が亡くなり、その妻と未成年の子供の合わせて2人が相続人になる場合。このとき、遺産分割協議の際、自身も相続人であるので母親は子供の代理人となることができない。したがって家庭裁判所に申立てることにより、選任された特別代理人とともにその協議を行うことになる。
これまで遺産分割協議の成立時点で20歳未満の場合は、未成年者であるがゆえに、親権者や特別代理人等が本人の代わりに遺産の分け方を話し合っていた。しかし、今後は法改正により成年者となる18歳・19歳の人は、自身が協議に参加し、他の相続人と話し合いながら、自分の意思で財産の分配の仕方を決めていかなければならなくなる。ここでは、その手続に関する知識や財産管理上の責任等が求められる。
さらに言えば、相続人は一つの世帯だけでまとまるとは限らない。例えば、代襲相続の場合は、自分の叔父や叔母等と話合いを行うこともある。普段接しているのとは違う雰囲気の中、遺産というシビアな話題について、対等に協議を進めていかなければならない。そしてここで円滑な話合いができるかどうかは、普段のそうした親族との関係性や、親同士の関係性等による影響が正直なところ大きい部分もある。
このように相続や生前の手続きについては、単純な事務手続きの面だけでなく様々な問題が考えられる。特に、新法制化の成年である18歳というのは、その多くの人々が高校に通う年齢でもある。普段の学校生活だけでなく、受験や新しい進路に向けた準備と並行して、こうした手続に関与することとなるので、そのあたりのケアについても考える必要がある。
また一方で、上で挙げたような手続上の問題点については、若い世代の人たちに限らず、実務上どの世代の人たちからも悩み事として聞く声でもある。また、相続や生前の準備については、元々早くから取り組んだ方がいいと言われている。
徒に危険をあおることはないが、今回の法改正を契機に、今後の成年者・未成年者が相続や生前の手続きを行う上で想定され得る問題点や、これまで実務で挙げられてきたような事例を見ていくことで、早くからその準備を行うことの有用性を改めて知ることができるのではないかとも考えられる。
よって、今後は成年年齢引下げによる影響を見ていき、相続や生前手続の準備を早期から行う必要性を改めて知ることができるようなコンテンツも発信していきたいと思う。
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