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115回目 "Typhoon" by Joseph Conrad を読む Part 2。今回は、Protagonist の船長 MacWhirr の少年時代のようすの紹介で始まる、Chapter I です。

私の Study Notes (末尾に公開中)において原文との対応箇所を示す必要のため、Project Gutenberg のサイトから取り込んだ原文に page numbers を割り振った pdf フォーマットのファイルをここに添付します。全 75 pages(A-5 サイズ)です。


1. Protagonist の MacWhirr 船長、その少年期

「鈍感で、周囲の声に無頓着であるからして、特に父からは『うすのろ』呼ばわりされる。」この novella の少年時代の主人公をそんな少年として描くのですが、それでも非凡な人間になる可能性のあることを Conrad は思わせぶりに示しながら書き綴っています。

以下に原文を引用します。この部分は Wikipedia Japan にあるジョゼフ・コンラッドの少年期と青年期の姿・生い立ちにあまりに似ているのでおかしくなります。読み比べられんこと、お勧めします。

[原文 1-1] His father never really forgave him for this undutiful stupidity. "We could have got on without him," he used to say later on, "but there's the business. And he an only son, too!" His mother wept very much after
his disappearance.
[和訳 1-1] 彼の父は彼がそのように責任逃れをし続け、バカな振る舞いに終始することを絶対に許しはしなかったのでした。父はそのような出来事の後には、「こんな子供なら初めからいなくとも良かったのだ。」と言い放ったのでした。しかし「あの子がいなくなっても自分には(放置できない)商売がある。その上、あの子、私の唯一人きりの息子も!」とも口にしたのでした。母はこの息子が行方知れずになった後には何度も酷く涙しました。

★★★ 《私の理解》この辺り、英語のネイティブでない Conrad の英語能力の所為か(私の読解力の責任でなく) ambiguous です。行方不明になった後のことではなく、息子の責任感の無さを叱った後にはの意味で later と言っているとここでは理解しておきます。それでいいのか否か? 上記の私の訳では、父の「初めからいなくても良かった。」は sour grapes 強がりであると理解しています。★★★

[原文 1-2] As it had never occurred to him to leave word behind, he was mourned over for dead till, after eight months, his first letter arrived from Talcahuano. It was short, and contained the statement: "We had very fine weather on our passage out." But evidently, in the writer's mind, the only important intelligence was to the effect that his captain had, on the very day of writing, entered him regularly on the ship's articles as Ordinary Seaman. "Because I can do the work," he explained. The mother again wept copiously, while the remark, "Tom's an ass," expressed the emotions of the father. He was a corpulent man, with a gift for sly chaffing, which to the end of his life he exercised in his intercourse with his son, a little pityingly, as if upon a half-witted person.
[和訳 1-2] この息子には家出するに当たり書置きを残すことまで気が廻らなかったことから、息子は死んだのかと、8か月もの長い間、Talcahano タルクアーノからこの息子の手紙が届くまで、父母は悲しい思いで過ごさされました。それは短い手紙であって、「私たちは英国から遠い処行く今回の航海においては天候に恵まれました。」との一文があったものの、今日のこの日、自分の船の船長が自分をこの船の船員リストに正規資格の船員として記載してくれたという喜びを伝えたかった故のものであることは明らかでした。自慢げな「私には仕事ができると評価された。」との理由の解説もありました。母はまたしても、激しく涙しました。その一方、父は「トムとはどうしようもない子供だな。」という発言が示す通り、息子を侮蔑するかのごとき一言で自身の興奮と喜びを覆い隠しました。父は肥えた身体の男で、他人を皮肉る言葉をひねり出す知恵に長けていました。その命が尽きる間際にあってすら、相手をバカ呼ばわりし憐れむがごとき体で、息子と言葉を交わすような男でした。

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上記引用は、このストーリの全体を一段落でまとめてしまうような箇所です。こんなストーリーの語り方もあるものなのだと感心させられました。

すなわち、この novella は主人公がどのように見事な仕事を成し遂げたかを描く作品ですが、読み終えた読者にはこの男に備わっていたの資質・性格の意外性が心地よいあと味を残すという意味でおもしろい作品です。

上記引用部分の直前にある9行が、次の引用です。なお、踏み跡さまのNote 記事にこの novella「台風」へのコメントがあります。

[原文 1-3] It was impossible in Captain MacWhirr's case, for instance, to understand what under heaven could have induced that perfectly satisfactory son of a petty grocer in Belfast to run away to sea. And yet he had done that very thing at the age of fifteen. It was enough, when you thought it over, to give you the idea of an immense, potent, and invisible hand thrust into the ant-heap of the earth, laying hold of shoulders, knocking heads together, and setting the unconscious faces of the multitude towards inconceivable goals and in undreamt-of directions.
[和訳 1-3] ベルファストにつましく生きる日用品店の家族に生まれた、何も文句のつけようがない息子が海に魅せられて家出してしまいます。このような顛末の物語の一つが船長マクファアのケースで、これほどまでに完璧な息子が生み出されたのか、その原因を一体誰に説明できるでしょうか? 驚くべきことに、この一大事が実行されたのはこの男 15 才の時でした。この決断と実行を頭に入れて考えると、このマクファアがやがて達成することになった一件も納得がいくのです。それは、巨大で有能で、そして目には見えない種類の「手」、すなわち「この男」が成し遂げた成果です。その手、この男は大地にできたアリ塚に差し込まれ、沢山の数の肩を確と捕まえて、沢山の頭をまとめ上げ、あっけに取られているこれら一群の人々の顔を、思いもつかないゴールへと、夢にもありそうにない方向へと向かわせたのでした。

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船長 MacWhirr の非凡さ、この novella のコアである事項が、何とも凝った文章で、具体的内容には触れないで、ことのエッセンスだけに限定して、こんなに最初の部分で開示されているのがこの作品です。但し、どれだけの読者がこの事に気付いて、この先へと読み進んで行くのでしょうか? 早くたくさん読むだけが能ではないのです(私の主張・自己弁護)。


2. やがて船長の地位にまで昇格、実績を積んだところで新造船Nan-Shanの船長として雇われます。

Chapter I の後半では MacWhirr が船長になった後での様子、その無口な人柄、部下の船員たちに居心地よく働く場所を作れる人柄が語られます。

私には、ネイティブ・スピーカーでない故の英語かなと思える表現を以下に拾い上げて見ます。おそらく母国語読者には『奇妙だがおもしろい』言い回しだったのではと思えます。そのような文章の例が以下の引用部分です。文法書で学んで覚えたルールを駆使して頭で組み立てた文章、試しにやってみたと言わんばかりの文章の様に思えます。ネイティブならこれ程理屈っぽいイメージを振り撒かない文章が書けるのではないでしょうか?

[原文 2-1] Old Mr. Sigg liked a man of few words, and one that "you could be sure would not try to improve upon his instructions." MacWhirr satisfying these requirements, was continued in command of the Nan-Shan, and applied himself to the careful navigation of his ship in the China seas. She had come out on a British register, but after some time Messrs. Sigg judged it expedient to transfer her to the Siamese flag.
[和訳 2-1] シグ会長は、無口な、加えて自分が命じたからとて、それに従い自らの行動を変更しようとしないタイプの男を好みました。「このような条件を満たす男であったマクワァアは、その後も(英国で建造されたこの船をアジア(シンガポール)まで届ける航海の後も)続けてナン・シャン号の船長であり続けました。彼はこの海、中国の海域でこの船の船長として慎重の極みともいえる航海・操船の業務を全うすることになりました。この船は、船主であるシグ海運会社の判断によって、程なく元々の英国籍から離脱してサイアム(タイ国)の船籍を取得することになりました。

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上記に続く paragraph が次の引用ですが、私だけかも知れませんが、単純な理屈で説明できそうな内容なのに大げさな、あるいはここまで理屈っぽくしないて言い表せないのかと疑問を感じるほと理屈っぽい文章だと思えます。

[原文 2-2] At the news of the contemplated transfer Jukes grew restless, as if under a sense of personal affront. He went about grumbling to himself, and uttering short scornful laughs. "Fancy having a ridiculous Noah's Ark elephant in the ensign of one's ship," he said once at the engine-room door. "Dash me if I can stand it: I'll throw up the billet. Don't it make you sick, Mr. Rout?" The Chief engineer only cleared his throat with the air of a man who knows the value of a good billet.
[和訳 2-2] この移籍の目論見、計画の存在を耳にしたジュークスは、考えれば考えるほど強くなる不安感に襲われました。個人的な嫌悪の情があってのことの様に移籍に不満を膨らませました。ブツブツ不平を一人で呟き、何度も(移籍を目論む)船主を揶揄する笑い声を上げました。「ノアの箱舟に乗せられた象、変ちくりんな象を、我が船主殿は、この船に掲げる旗に取り入れたいのだってよお。そんなこと我慢できるものか! もし自分が反対せずに黙ってしまうなら、そんな私を叩きのめしてくれというものだ。移籍なんかするのなら私はこの職場を放棄してやるぞ! (機関長の)ラウトさん、あなたは気分が悪くならないのですか?」とある時、機関室の入り口ドアに向かって声を荒げました。機関長は、この職場の居心地が如何に良いものであるかを知り尽くしていて、咳ばらいをするだけでこれを聞き流したのでした。

《 訳注: タイの国の象徴の一つは象である。》

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これら原文 2-1, 2-2 の文章は文法を勉強した直後に習熟する為の訓練を兼ねた知恵ゲームのようにして捻出した文章なのかなと私には思えます。

同じ様な理由からでしょうが、次の引用部分もわざわざややこしく組み上げられた文章という匂いがします。

[原文 2-3] Captain MacWhirr meantime had gone on the bridge, and into the chart-room, where a letter, commenced two days before, awaited termination. These long letters began with the words, 'My darling wife," and the steward, between the scrubbing of the floors and the dusting of chronometer-boxies, snatched at every opportunity to read them. They interested him much more than they possibly could the woman for whose eye they were intended; and this for the reason that they related in minute detail each successive trip of the Nan-shan.
[和訳 2-3] 船長のマクワァアは少しばかり時間を割いて船橋に昇りチャート室に留まるのでした。そこには二日前に書き始めた手紙が、まだ完了せずに開いたままになっていました。手紙にはいつも長い文章が書き綴られます。「愛おしい私の妻へ。」という決まり文句で始まります。世話係の男は床磨きの掃除やクロノメーター時計のケースの誇りを取り除くやの作業の合間を見つけてはこの手紙を覗き読みしました。この手紙はいつもこの世話係の興味を引いたのです。手紙の宛先の女性がおそらく感じたであろう興味以上に強い興味を、この男は感じたのです。それは、この船ナンシャン号の次から次へと続く旅の様子が、事細かな詳細に至るまでこの手紙に書きつけられていたからでした。

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3. こんな Joke が分かるか? こんな理解で正しいか?

機関長の Solomon が China seas に出かけている間の London の留守宅での話です。40 才位の妻一人の時刻です。

[原文 3] On the day the new curate called for the first time at the cottage, she found occasion to remark, "As Solomon says: 'the engineers that go down to the sea in ships behold the wonders of sailor nature' ; " when a change in the visitor's countenance made her stop and stare.

  "Solomon. … Oh! … Mrs. Rout," stuttered the young man, very red in the face, "I must say … I don't. …"
 
  "He's my husband," she announced in a great shout, throwing herself back in the chair. Perceiving the joke, she laughed immoderately with a handkerchief to her eyes, while he sat wearing a forced smile, and, from his inexperience of jolly women, fully persuaded that she must be deplorably insane.
[和訳 3] ある日、教区の若い牧師見習いが、彼(Mr. Rout)の留守宅を訪れます。話の流れの中、ラウト夫人が「ソロモンが言ったのですが、『船に乗って大海に乗り出すエンジニア達は、船乗りだけが目に出来る魅力的なものを目にする。』とのことですよ。」とこの男に教えました。するとこの牧師見習いの顔の表情が一瞬にして変化し、それに気づいた夫人は慌てて言葉を中断、ジッと相手を見つめることになりました。

  「ソロモン。・・・おゝ、ラウトさん、」と牧師見習いは言葉に詰まりました。顔は真っ赤になり、「私はお伝えしなければなりません。私は決して・・・の積りはありません」と。

「彼は私の夫ですよ。」と夫人は上半身を椅子の上で後ろに反り返し、大きなはっきりした声で説明しました。冗談を構成していたことに気付いた夫人は凄い大声で笑いハンカチで目からこぼれる涙を抑えました。一方、この牧師見習いは、無理に笑顔を作り、「あっけらかんとした女性とはこんなものだ」と知る様な経験が無かったことから、本気で、この夫人は不道徳な方向に気が狂った女だと考えたのでした。

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4. Study Notes の無償公開

今回の読書対象は ”Typhoon” (原文は本記事の最上段に添付)の Chapter ! です。これに対応する Study Notes を以下に公開します。A-5 サイズの用紙への印刷を前提に調製されています。Word 形式と pdf 形式の2種類ですが内容は同一です。

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