最近読んだ本の感想「アルツ村」
南 杏子 「アルツ村」
元看護師の明日香は夫のDVに限界を感じ、娘をつれて車で逃げだす。
途中、あおりの車に追われ、幹線道路をはずれて山道に入る。
そして、自損事故を起こし車を放棄し、追手を恐れさらに山奥へ。
その先の金属柵に手をかけて意識を失う。
気が付いたとき、ある民家の座敷に寝ていた。その家の主人(修三)は
認知症で、明日香のことを孫の夏美と勘違いする。
多くの章でこの村のこと等が説明されていく。この村に住んでいるのは
全員高齢の認知症の人。そして彼らを世話する人たちは「バンショウ」さんと呼ばれている。
※のちに、ヘルパーを表す中国語の帮手(バンショウ)と説明される
<認知症の人々の実際>
認知症の人たちが短期記憶を保持できないことや急に怒り出したりすること
認知症のタイプによって症状は千差万別なこと。病気が急にひどくなったりもする。
<ヤングケアラーの事例>
修三の孫(夏美)が初子や修三の介護をつづけるなか、限界に達して
初子の首を絞めるという事件が発生し、その後、夏美は自殺する。
<家族の戸惑い>
認知症患者を「アルツ村」にあずけること(負担軽減)と罪の意識
<アルツ村の秘密>
明日香のまわりで親しくなっていた人がなくなったとき、遺体処置の前に
一時的に元の家に帰されるが、明日香はその頭部に手術痕をみつける。
※明日香が救出されたときの経緯は、示されていない。なぜ、修三の家に運びこまれたかも不明のまま。
認知症によって一人で日常生活を送ることも不可能となり、人としての尊厳を失っていく。その影響は家族へ。そして介護の長期化による介護破綻。受け入れ施設の不足。すると、アルツ村に救いを求めるのは自然の成り行きだったりする。
日本における外国資本による土地買収、ブレインバンク整備の遅れ、ヤングケアラーに対する理解不足、そしてなにより認知症の人々への支援不足、さまざまな問題を読者になげかけているように思う。
最後に明日香に関する驚愕の事実が明かされる。
アルツ村に関する謎をずっと明かさずに物語は進んでいく。そして最後のスリルとサスペンス、一気に読み終えてしまった。