見出し画像

脳が教える! 1つの習慣 (ロバート・マウラー)

小さいことからコツコツと

 原題は「One Small Step Can Change Your Life : The Kaizen Way」です。邦題よりもこちらの方が素直でわかり易いですね。

 デミング博士の品質管理手法と臨床心理学者としての知見をもとに、「変化に向けて、日々小さな一歩を実践する習慣」の重要性を訴えています。

 「小さな質問」「小さな思考」「小さな行動」「小さな問題解決」「小さなごほうび」「小さな気づき(小さな瞬間を察知)」、この「小さな○○」というのが著者の主張の「肝」です。

(p48より引用) 変化を起こしたいのに行き詰っているというとき、たいてい大脳辺縁系がそれを台無しにしている。

 大脳辺縁系には、差し迫った危機に対して行動を起こすよう身体に警報を出すという機能があります。それが「闘争・逃走反応」で、この反応が、変化しようという気持ちに対して、抑制方向の反応を生じさせるのです。

 この反応を回避する方法が、「小さな一歩」を積み重ねることだと著者は主張しています。

(p52より引用) 小さな一歩を実践しつづけ、大脳新皮質が働きはじめたら、脳はあなたが望む変化に合わせた“ソフトウェア”をつくりだし、新たな神経経路を設けて、新しい習慣を確立する。あっという間に変化への抵抗感が消えはじめる。

 最初の脳のハードルさえうまく越えることができれば、それは習慣として定着・拡大してゆくのです。

 最初のステップは、自分への問いかけ(小さな質問)です。「小さな質問」を繰り返すことにより、脳は、それに取り組むための思考回路を形成するようになるというのです。
 そういう下地をつくっておいて、次に、無理なくできるレベルの行動(小さな行動)に移っていきます。

The Kaizen Way

 本書では、しばしばトヨタの「カイゼン」活動が具体例として紹介されています。有名な「大野耐一」さんも登場します。例の問題発生時の工員による「ライン停止」の話です。

(p153より引用) 小さな問題をその場で解決することが、のちのち、はるかに大きな問題が発生するのを防ぐ。

 また、トヨタのカイゼン活動に代表されるいわゆる「提案制度」の日米の差異についても言及しています。
 提案制度への参加率、提案の採用率ともに日本の方が圧倒的に高い数値を示しているそうです。

 その違いの原因として、著者は、提案活動に対する「報酬」についての日米の考え方の違いを指摘しています。日本では、過度な報酬は逆効果になりがちのようです。

(p182より引用) 企業が多額の報奨金を出すというのは、「従業員は、自分が儲かると思えば脇目もふらずに働く歯車だ」というメッセージを出していることになりかねない。
 また、大きな報奨はそれ自体が目標になってしまい、仕事そのものに刺激と創造性を見いだしたいという社員の自然な欲求を奪いかねないのだ。

 日本の報奨金の平均は約400円。対するアメリカは約5万円です。

(p183より引用) 小さな報奨は、社員一人ひとりの内側からのやる気を後押しする。・・・小さな報奨は、向上したい、貢献したいという社員の内なる欲求を、企業や上司が高く評価したという合図になるのである。

 日本は、直接的な「おカネ」という形のインセンティブよりも、社員への「内発的動機付け」を重視しているのです。

 さて、本書において、著者は「小さな行動」の実践を勧めています。しかし、そういう悠長なやり方でいいのかしらとの思いもあるでしょう。
 こういった「小さな改善」では、現在企業がおかれている急激な環境変化には対応できないのではないか、今はドラスティックな変化・変革が求められているのではないか、との疑念です。

 こういった疑念に対して、著者はこう答えています。

(p169より引用) 「小さな一歩を実践する習慣」と革新の大きなジャンプは相容れないものではない。
 二つを併用すれば、深刻かつ複雑で、解決不可能に思われる問題にさえ対抗できる、強力な武器になる。
 だが、これまで解決できなかったトラブルに直面している人は、まず小さな一歩からはじめよう。



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集